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来たるべき全国大会に備え、ララメンテ家でも他家の強豪選手達への対策が始まっていた。もちろんその中心にいるのは、ララメンテ家が誇るふわふわ分析魔ことコルティナである。
コルティナは、本部道場の会議室に集まった選手達の前に立ち、
「聞いた話によると、レングストン家ではアウフヴェルツ社が開発してる最新のVR環境を使って、剣術の研究をしているらしいよー。何だか楽しそうだねー」
まずはレングストン家の近況について世間話風に切り出した。
どうせコルティナの事だから中々本題には入らないだろう、と覚悟していた選手達は、特に「早く話の核心に入れ」などと急かす事もなく、
「VRって、大きいゴーグルみたいなヘッドセットを被ってやるアレ?」
「傍から見ると、すごい間抜けな感じのアレね」
「カクカクした、いかにも作り物って感じのCGで、ちゃんとした稽古には使えないんじゃないかな」
このふわふわなお嬢様のノリに気長に付き合う事にした模様。
「現状、まだそのまま稽古に使える程のモノではないかもねー。でも、相手選手の動作を確認する補助手段としては、結構優れモノだと思うよー。案外、細かい癖まで再現されてたりしてー」
「じゃあ、VRのコルティナはふわふわとしてるに違いないね。幼児が散歩させて遊ぶフィルム風船の犬みたいに」
選手の一人が言った冗談に皆が笑い、笑われている当のコルティナも一緒になって笑う。
「うふふ、それは可愛いねー。多分、そんな風に個人の特徴を再現した立体モデルを、臨場感たっぷりに間近で見られるんだよー。しかも自分の好きな位置と角度から、動きをスローにしたり止めてみたりー」
「確かに、それはすごい」
「特定の技が出る前兆を発見するのに便利ね」
「実際に打たれる位置に立って対抗策を考えたり、打つ側に回ってその技をトレースしたりして」
「夢が広がるねー。でも、ここだけの話、この状況は非常に深刻かもしれないよー」
少し声のトーンを落とし、ほんの少しだけ真面目な顔になって皆を見回すコルティナ。
「確かに、そんな夢みたいな稽古を実現してるレングストン家に比べて、こっちは不利だわ」
「ハイテクと縁のない旧態依然のアナログだもんね。エディリア一の分析魔がついているとは言え」
「これはもう、私達もうかうかしてられないって事ね、コルティナ?」
つられて真剣になる選手達。
「そんな事より、もし私達のモデルがHな用途に使われてたら、って考えると、これはゆゆしき問題だと思わないー?」
「は?」
「一般人がVRに期待する事って、結局エロだよねー」
「何言ってんだ、お前」
「とりあえず、私達の精巧な立体モデルがあられもない格好で剣術をさせられてる所を想像してみてー」
「企画物のAVじゃないんだから」
「それを自分の好きな位置と角度から、動きをスローにしたり止めたりー」
「一般ゲームで女の子のパンツが覗ける場所を必死に探すダメ人間か、あんたは」
仲間達から大量のツッコミを入れられながら、コルティナの話は例によってどこまでもどこまでも脱線して行った。