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「このアトレビド社の『作って遊ぶお菓子』シリーズのCMに、エーレを出演させてみたいなー。きっとハマリ役だよー」
「十八にもなって、こういうお菓子で無邪気に遊ぶ幼児役のオファーが来たら絶対断るわ!」
ロールブラシ状にたくさん生えている枝の一本一本に青いグミ玉が付いたプラスチックの棒を握りしめながら、コルティナの願望に対して断固拒否の構えを取るエーレ。手にしているモノがモノなので、ご機嫌斜めの幼児っぽく見えない事もない。
「エーヴィヒさんにも協力してもらって、アウフヴェルツ社とコラボする形でー」
「裏から手を回すなっ!」
「まー、その話は一旦横に置いといて」
「もう永久放置でいいから」
「シェルシェの心配事に話を戻すと、私達が今まで通り他家の大会に出場し続けるのは、色々問題が出て来て限界があるかも、って事だよねー」
「こういう外部からの参加が認められた大会は、いつまでも『合法的に他流派の剣士と戦える良い機会』であって欲しい所だけれど」
「外部に開かれているとは言っても、本質的にはその流派内での内輪の大会だからねー。興行的な旨みが少なくなれば、『他流派は参加禁止』とか、『ただしエーレは可愛いので許可』とか言い出すかもー」
「前者は流派のメンツもあるから言わないでしょう。後者は論外」
「シェルシェが『流派を超えた統一ルールの下での剣術大会』を開催しようと躍起になってるのは、その辺もあるんだろうねー。思う存分他流派と戦える大舞台をひとつ用意して、各家で主催する全国大会は本来の内輪な催しに戻す、っていう具合にー」
「でも統一ルールの大会開催にこぎつけるまでの間、御三家の全国大会が興行的にもつかしら。コルティナはどう思う?」
「統一ルールの方は判定機器導入の技術的な問題をクリアするだけでも、五年以上はかかるだろうねー。で、ちゃんと大会の形になるのはさらに一年以上必要ー。御三家の全国大会の方は、五年後にパティが一般の部に上がるまで、そこそこの興行収入は維持できるかなー。だから普通に考えて六年後以降は、苦しい時期に突入するだろうねー」
コルティナは自分で手間暇かけて作ったグミ玉を美味しそうにパクパク食べながら、
「流石のシェルシェも、こればっかりはどうにもならないと思うよー。六年も先の事を完璧に予測する事なんて、誰にも出来ないしー」
「常に先の先を読むシェルシェでも、ね」
「でも案外、何か予想外の出来事が起こって何とかなるかもねー」
他力本願な希望的観測をふわふわと示して、その分析を締めくくった。