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「他にも、『作って遊ぶお菓子』は一杯あるからねー」
そう言って、次にコルティナが段ボール箱から取り出したのは、プラスチックの棒からたくさん生えている枝の先に溶液と粉を繰り返し付け、まるで木になる実の様に大量のグミ玉を作るタイプのお菓子だった。
「さっきのもそうだけど、妙にオモチャっぽいお菓子ね。いかにも子供が喜びそう」
コルティナからもらった袋を開けながら、ちょっと大人っぽく感想を述べようとしているのだが、その一風変わったお菓子にワクワクしている様子をエーレは全然隠せていない。
「ところでエーレも、シェルシェから今後の大会について何か言われたー?」
プラスチックの棒の枝の先を溶液と粉に浸すだけの単調作業を繰り返しながら、コルティナが尋ねる。
「電話で少し話をしたわ。他家の大会の一般の部に、外部から指導者クラスの選手が参加するのはいかがなものか、って事をね」
同じく単調作業を繰り返しながら、枝の先のグミ玉が徐々に大きくなっていくのを楽しむエーレ。
「シェルシェも言ってたけど、来年に関しては何の問題もないと思うよー。むしろ観客からすれば、『待ってました』って感じでー」
「問題はそれを何年も続けた場合ね。観客からすれば、単に勝ち負けだけで流派の優劣が決定される様な気がするでしょうし」
「外部の強豪に十年位連続で大会優勝をかっさらわれたら、流石に営業妨害レベルかなー」
「そんなに簡単に優勝出来たら世話ないけどね」
「ただ、何年も同じ事をやってるとお客さんも飽きて来るかもねー。今までは、小、中、高っていう期間限定で区切られてたからこそ、その時その時で盛り上がれた面もあるしー」
「スター性を持った選手が後からどんどん育ってくれれば、話は別だけど」
「強い弱い上手い下手とは別に、『客を呼べる』っていうのはまた別の才能だよねー。エーレみたいに、『どう見ても可愛い幼女にしか見えないのに、実はとっても強い』って選手は中々いないしー」
「誰が幼女よ!」
つい、作りかけのグミ玉が一杯付いている棒を振り上げて抗議するエーレ。お子様向けお菓子を持ってわめくその姿は、まったくもってかんしゃくを起こした幼女そのものに見える。
そんな自分をニヤニヤしながら見ているコルティナに気付いて、ハッ、と我に返り、
「こ、興行収入の面でメリットがなくなったら、私達も他家の大会への出場を控えざるを得ないかもね」
「うふふ、今のエーレは可愛かったー」
「このお菓子はそういう罠かっ!」
コルティナの追い打ちに耐えつつ、グミ玉を大きくする作業に戻るエーレ。
ちょっとした小道具が「らしさ」を演出するのである。