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コルティナの悪ふざけに他の企業が乗っかった、もとい相乗効果を十二分に狙って制作した、美少女剣士達による四連CMが話題となり、その年のエディリア剣術界も盛り上がりを見せ、
「今年の全国大会も、興行的成功は約束された様なものです」
マントノン家の書斎で現当主シェルシェも、前々当主にして祖父のクぺに、そんな景気のいい見通しを報告していた。
「今年は三年振りにミノンとエーレとコルティナが、高校生の部で一堂に会する年でもあるからな。話題性も十分だろう」
机の向こう側で椅子の背にゆったりともたれかかり、愛しい孫娘の雄姿を想像して悦に入るクぺ。
「おそらく、今年が興行的な意味でのピークとなるでしょうね。来年以降、縮小傾向に転じるのは避けられそうにありませんが」
そんなおじいちゃまの幸せな白昼夢に水を差すシェルシェ。
「まあ、次の御三家令嬢対決のある三年後までは仕方あるまい」
「いえ、たとえ三年後に一般の部でミノン、エーレ、コルティナがまた顔を揃えたとしても、彼女達はもう『美少女剣士』という肩書きを持ち合わせていません」
「そんなに『少女』である事が重要なのか。剣が熟練の冴えを見せるのは、むしろ成人して以降だと思うが」
「ふふふ、大衆は実より花に心惹かれるものです。彼らがわざわざ大会会場に足を運んでくれるのは、剣技の妙を味わう為でなく、まだ年端もゆかぬ美しい少女が華々しい活躍を目の前で見せてくれるという、下世話に言ってしまえば見世物的興味からなのです」
「ふむ、確かにアイドル的な面が客を呼んでいるのは間違いないが」
「もちろん、『少女』でなくなったからといって、急に人気が落ちる訳ではありません。ですが、アイドルが年を取るごとにアイドルでいられなくなっていく様に、それは少しずつ興行収入の数字に表れていく事でしょう」
「例えがやたら生々しいな」
「と、ここまでは見る側の事情です。大会を主催する側の事情を考えると、話はもっと生々しくなります」
「カネ、か。主催者として、興行収入の増減は無視できないのは当然だ」
「それもありますが、どちらかと言うと心の問題です」
生々しい話を語る時、シェルシェは妙に活き活きとしている。
そんな事をぼんやりと思いながら、この孫娘の話に耳を傾けるおじいちゃま。