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「確かに、このお菓子は癖になるわね。きっとヒット商品になるわよ」
あっという間にカラになってしまった袋を見て、ちょっと自分の自制心の無さを反省しつつ、エーレが感想を述べた。
「でしょー? これからCM撮影に入るんだけどー、先行販売してる分の売れ行きも上々みたいでー」
そう言いながら、持参した段ボール箱から、また同じ菓子袋を取り出そうとするコルティナ。
「待って。キリがないから、もうそれはやめておきましょう。まだ他にも、袋の口を開けたお菓子が一杯あるし」
「そう? なら、今度はこっちを試してみてー。これもサムライの国のお菓子で、エビ風味のスナックだよー」
テーブルの上に置かれた数々のお菓子の中から、表面に縞々模様の段差が付いた小さな棒状のスナックを勧めるコルティナ。
エーレは試しにそれを一本食べた後、
「うん。甘いお煎餅の後に、程よく塩気のあるスナックは美味しいわね」
気に入ったらしく、すぐにまた袋に手を突っ込んで、何本か取り出した。
「このお菓子も中毒性が有名でー、一度口にしたら、やめられなくて止まらなくなるから気を付けてねー」
コルティナがさらっと不穏な事を言う。
「そういう事は先に言って欲しかったわ」
抗議しながらも、手にしたスナックを一本一本食べ続けるエーレ。
「おやつを食べ過ぎて、夕食が食べられなくなるお子様にならない様にねー」
「誰がお子様よ。それに、あなただって同じだけ食べてるでしょうに」
「これも普段お世話になってるアトレビド社への義理だよー」
「今やすっかりお菓子メーカーの回し者ね。全国大会の応援で、魔女のコスプレするのはやり過ぎだと思うけど」
「あ、アレは個人的な趣味ー」
「やりたい放題か」
「エーレもCMでお世話になってるアウフヴェルツ社に、少しはサービスしてあげないとー」
「十分サービスしてるから、これ以上は不要よ」
「今度のCMはどんなサービスするのー? 去年は水着だったから、今年はセミヌード?」
「断固拒否するわ。そういうのは剣士じゃなく、本職のモデルさんにやってもらった方が絵になるし」
「私は去年裸ローブになったけどー」
「仕事選んで、お願い」
「私の案だったんだよー」
「自分からそんな案出すな!」
「でも、エーレもちょっと露出を多めにして、大人の女性の色香を漂わせるのも、イメージチェンジになっていいんじゃないかなー」
「大人の女性、ね」
関心なさそうに聞き流しているものの、その実、ちょっと「大人」というキーワードに心が傾きかけているのが表情に出てしまう、分かり易いエーレ。
「大事な所は泡で隠れて見えないバスタブに浸かった状態でー」
「まるで入浴用品のCMね。パソコンと縁がなさそう」
「こう、お湯でほんのり赤く顔を染めて、恍惚とした表情でー、色っぽくー」
「柄じゃないわ」
そう言いつつも、ちょっとまんざらでもなさそうなエーレ。
「ゆっくりと、けだるい声でー」
「けだるい声で?」
「一から百まで数えるのー。いーち、にー、さーん」
「結局、お子様オチかあっ!」
肩までお湯に浸かって百まで数える幼児はとても可愛い。