◆379◆
「ついにメンバーの借金の肩代わりまで始めたのか。いくらなんでも介入し過ぎではないのか」
マントノン家の書斎で、孫娘にして現当主シェルシェから、「全国格闘大会推進委員会(仮)」に関する報告を聞かされていた祖父にして前々当主クぺが、驚き呆れつつ苦言を呈した。呈したところでこの孫娘がすんなり聞き入れる訳がないと分かってはいるのだが。一応、念の為。
「肩代わりではありません。多重債務を整理してマントノン家に一本化しただけです。合法かつ良心的な超低金利に変更しましたが、回収はきっちりと行います」
案の定、涼しい笑みを浮かべたまま、しれっと答えるシェルシェ。
「全国大会の開催まで、先はまだ長いのだろう。現在、経営難に陥っている個人道場主から、そう簡単に金を回収出来るとも思えんが」
シェルシェから渡された、今回の借金の借り換え関連の資料に目を通し、その結構な額に顔をしかめるおじいちゃま。
「たとえ格闘全国大会が開催されたとしても、その興行収入から差し引く訳には行きませんよ。今回の措置は、あくまでもマントノン家と個々のメンバーとの約定ですから」
「それは分かっている。大方、全国大会の宣伝効果によって、各道場の入門希望者が増えて経営状況が回復するのを見込んでの事だろうが、それもうまく行くかどうか」
「もちろん目指すべきゴールはそこですが、私もそれほど気が長い方ではありません。債務の大半は数年以内に回収を終えるつもりです」
「一体、債務者達に何をさせる気だ?」
ちょっと不安げに聞くおじいちゃま。その表情からは、「まさかヤバい非合法の裏の仕事じゃないだろうな」と、言いたそうなのが容易に読み取れる。
「ふふふ、安心してください、おじい様。『自殺して生命保険の死亡保険金で払え』、とか、『臓器を売ってもらいましょうか』などと迫るつもりはありません」
想像の斜め上を行くこの発言に、おじいちゃまが少し引いているのを眺めつつ、
「ちょっと法律上の手続きに協力してもらうだけです」
妖しく微笑むシェルシェだった。