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マントノン家の当主シェルシェが、「全国格闘大会推進委員会(仮)」の活動を裏から操る、もとい陰から支える形で援助している事は、世間に少しずつ認知されて行き、
「あのシェルシェがバックについているなら、ちゃんとした組織なんだろう」
「格闘の全国大会開催を目標に、割と真面目に定例会議をやってるとか」
「たまに合同稽古の一般公開もやってるが、費用は全部マントノン家持ちらしい」
どこの馬の骨とも知れない零細武芸道場主達の怪しげな寄り合い程度に見られていた委員会(仮)も、それなりの存在感を持つ様になった。
「マントノン家の看板の威力は大したもんだよ。ご近所から胡散臭い目で見られてたのが、急に人間扱いされる様になった」
「どんだけ胡散臭がられてたんだよ、お前の道場。俺ん所は別にそんなひどくはないが、やっぱりあのシェルシェとコネがあると分かると、見る目が変わった感はある」
「その内、『マントノン家の看板使用料を払え』とか言ってきたりしてな。こちとら借金だらけの貧乏道場主で、逆さに振っても鼻血も出ねえけどよ」
定例会議に出席していた委員会(仮)の面々が、そんな冗談を言って笑い合っていると、その日の会議の場を提供していた道場主の携帯の着信音が鳴った。
「……シェルシェ嬢からだ」
携帯に出る前に、画面に表示されている名前を見た道場主が皆にそう告げると、その場は一瞬で、シン、と静まり返る。
噂をすれば影というより、もうこの会議の様子を向こうで盗聴しているんじゃないか、という位絶妙なタイミングで掛かって来た電話に、道場主が思わず居住まいを正して出たその内容は、一言で言うと、
「もし委員会(仮)のメンバーで多額の借金を抱えている人がいれば、マントノン家が一度それを清算し、改めて無理のない返済プランの下、低金利な負債に変更してあげましょう」
という申し出だった。
「借金を全部マントノン家で一本化してくれるって事か。低金利にして」
「ありがたい話だが、信用していいのかねえ。『返せなかったら、道場は借金のカタにもらっていく』とかなったら、俺は路頭に迷うぜ」
「名門の当主が、不人情極まる強硬手段は取れねえだろ。そんな事が世間に知れたら、誇り高きマントノン家のイメージが地に落ちる」
結局、今までよくしてもらっている事もあり、多重債務を抱えて困っている何人かのメンバーは、恐る恐るこの申し出を受ける事にしたが、その後、特に問題もなく、
「流石、名門のお嬢様だけあって、仲間になった者は苦境から救ってくださるんだねえ」
暮らし向きが少し楽になった事をシェルシェに感謝する様になった。
こうして着々と「全国格闘大会推進委員会(仮)」に対するシェルシェの支配力が強化されて行く。