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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第十二章◆◆ 女当主による本物の人間を使った実験について
375/635

◆375◆

 マントノン家の若き女当主シェルシェの罠、もとい気前のいい提案に対し、喜んで受け入れる旨の返答をしてから約二週間後、「全国格闘大会推進委員会(仮)」を構成する主だった道場主とその道場生は、エディロ郊外にある小学校の体育館の前に集結していた。


 休日を利用して、その日一日貸し切られている体育館の入口には、大きく「全国格闘大会推進委員会(仮) 公開合同稽古 見学自由」、と書かれた大きな看板が立てかけられている。


「何か、こう一気に話が具体的になったな」

「今まで何度集まって会議をやっても、結局内輪でダベッって終わり、だったからなあ」

「百の議論より一つの実行か。流石、若いのにマントノン家の当主をやってるだけの事はある」


 看板を見ながら、シェルシェの大胆かつ迅速な行動力にしきりに感心する委員会(仮)の皆さん。


 各々、自分の道場から連れて来た道場生の顔合わせの挨拶を済ませた後、体育館に入り、シェルシェが作成した企画書に従って、他流試合形式の合同稽古が始まった。


『これは決して勝敗を決する試合ではない事を、念頭に置いてください。あくまでも、大会開催に向けてルールを決定して行く上での試みの一つに過ぎません』


 シェルシェから、その様に念押しされている事もあり、


「ま、ヨソの道場に体験入門する位の感じで」


 対戦するどちらか一方の流派のルールに従う形で、軽めの他流試合が次々に行われ、特に何の支障もなく、普通の交流会的ないい雰囲気が出来上がる。


 やがてちらほらと、普段その小学校に通っている子供達が体育館にやって来て、この様子を遠巻きに見学する様になり、


「お、小さなお客さんが来たぜ」

「少しでも客が入ると、こっちとしても張り合いが出るもんだ」

「あ、帰っちまった。引き留めたいが、それをやったらいけねえんだよな」


 シェルシェの企画書に記載された、


『見学は自由にさせてあげてください。入場も退場も自由が原則です。客引きをしたり、帰ろうとするのを引き留めるのは禁止です』

 

 という、歓楽街の禁止条例の様な指示を少しはがゆく思う委員会(仮)だったが、


「あ、あの子、また来たぞ」

「しかも大人と一緒だ。保護者かな?」

「『何か面白そうな事をやってる』って、家に戻って報告したんだろ」  


 やがて特に客引きをしなくても、入れ替わり立ち替わり、常時十人程度のギャラリーが体育館に詰めかける様になった。


「結構、客が来るもんだな」

「ま、タダだし」

「デパートの空きスペースとかで無料でやってる、素人が趣味で描いた絵の展示会とかを覗く感覚なんだろ」


 自嘲気味に言い合うものの、自分達の活動に一般の人が興味を示してくれた事で、まんざらでもない様子の委員会(仮)。


 結局その日の公開合同稽古は無事に終了し、後片付けを済ませてから、これもシェルシェが予約してくれた近くのレストランで打ち上げを兼ねた夕食会を経て、皆十分満足した様子でそれぞれの帰途についた。


 スケジュールの関係で参加出来なかった仕掛け人のシェルシェは、後からその話を聞いて、


「上手く行った様で何よりです。大きな事をやってもらうには、まず似た様な小さな事をやってもらって、その大まかな感覚をつかんでもらうのが良策ですね」


 と祖父クぺに報告し、満足げに微笑み、


「ふふふ、一般人を違法薬物に染める手口と似ているかもしれません」


「大麻から覚醒剤か」


 孫娘の笑えないジョークに、少し心を痛めるおじいちゃまだった。

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