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高級ホテルの中広間を貸し切って行われているララメンテ家の高校生の部の祝賀会場では、その日の最高殊勲者であるはずのコルティナ当人が仲間に囲まれて糾弾されるというお馴染みの光景が展開されている。
「もう高校二年生なんだから、いい加減、優勝インタビューで漫談ごっこはやめなさい」
「大会ってのは、もっとこう、友情、努力、勝利的な感動ドラマであるべきだと思うの。感動ドラマのラストのクライマックスで、突然それまでのストーリーを無視してパイ投げ合戦が始まったら、それまでの感動が全部ぶち壊しでしょうに」
「ウチは確かにマントノン家とかレングストン家に比べればB級扱いかもしれないけど、公式大会っていう晴れの舞台までB級扱いじゃ、ちょっと悲し過ぎない?」
付き合いの長い同年代の仲間達が、見事優勝を果たしてララメンテ家の名誉を守ったふわふわお嬢様に説教しているのを遠巻きに眺めながら、
「でもすごいよね、コルティナさん。ウチの大会ではずっと負けなしだもん」
「そんなにすごい人なのに、ちっとも威張らないし」
「本当に絵本に出てくる魔法使いみたい」
お菓子のCMのふわふわ魔女なイメージ戦略につられて入門したばかりのいたいけな小学生達は、素直にコルティナを褒めそやしていた。
それを耳ざとく聞きつけたのか、
「いいもーん。汚い大人達が分かってくれないなら、汚れなき子供達に癒されてくるもーん」
仲間達による糾弾から逃げ出して、自分を称賛してくれる小学生達が集まっている方へふわふわと歩み寄るコルティナ。
「不審者がそっちに行ったわよ! みんな早く逃げて!」
憧れの目でコルティナを迎える小学生達に警告する高校生達。
が、何も知らない小学生達にとっては、アイドルでありお嬢様であり英雄であり美少女であり天才であるこのふわふわお嬢様は、
「優勝おめでとうございます!」
「私もコルティナさんみたいになりたいです!」
「握手してください!」
ある意味神に近い存在だった。
「その素直な心を忘れないようにねー。そうすれば、きっと強くなれるよー」
いたいけな子供達へ微妙に邪な事を吹き込もうとする碌でもない神かもしれないが。
「あー、私にもあんな頃があったなあ。入門したての頃は、コルティナさんがまるで天上から降りてきた女神様みたいに見えたっけ」
「コルティナさん、おふざけの度が過ぎなければ、本当に女神で通ると思う」
「いや、本当にスペック高くてすごい人なんだけど。自分で自分のイメージを台無しにして楽しんでると言うか」
興奮した小学生に囲まれているコルティナを遠巻きに眺めながら、複雑な面持ちで語り合う中学生達。
「あ、あそこに素直じゃない子達を発見! ちょっと行って教育して来るねー」
それを耳ざとく聞きつけたコルティナが、小学生達の群れを抜け出し、自分をディスっている声の方へふわふわな笑顔を浮かべてやって来る。
少し気まずい思いをしながらも、
「こっち来るなあ!」
とは言えない中学生達。
流石に言い過ぎたかな、と反省している所へ、コルティナは開口一番、
「大会ってのは、もっとこう、友情、努力、勝利的な感動ドラマであるべきだと思うのー」
ついさっき、同年代の仲間達に説教されていた事をそのまま伝え、
「あんたが言うな!」
言われた方は皆、そんなツッコミが口まで出かかったと言う。
この女神様の思考と行動は誰にも読めない。