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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第十一章◆◆ 姉より優れた妹が存在するかどうかについて 
368/635

◆368◆

「ウチの犬は絶対咬まないから大丈夫ですよ、ガス屋さん」


「そう言われて、今まで二度咬まれました」


 これはとある犬を飼っている家におけるガスメーター検針の時の会話で、この物語とは全く関係ないが、ある意味それに近い光景が大会終了後に会場の外で繰り広げられていた。


「ふふふ、そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ、エーレ」


「そう言われて、今まで何度騙された事かしら?」


 レングストン家の選手達が集まっている所へ、マントノン家の三姉妹ことシェルシェ、ミノン、パティの三人がエーレに会いに来たのである。


 放し飼いにしているパティが悪さをしない様その隣で見張っているミノンを背後に従えたシェルシェがエーレと対峙している構図だが、事情を知らない人にとっては、今や押しも押されぬ天才美少女剣士五人の内の四人が一堂に会する貴重なシーンであり、豪華な絵面に見入ると共に、その言葉にも何か深い意味がある様な気がしてつい耳を傾けてしまう。


 実際は犬に怯えるガスメーター検針に近いのだが。


「最後の試合は惜しかったですね。ですが実力伯仲、どちらが勝っても不思議ではありませんでした」


「そう言ってもらえると救われるわ。世間では『コルティナが優勝したのは予想通り』と見るでしょうからね」


 いつ襲い掛かって来るか分らないパティを警戒しつつ、シェルシェと会話するエーレ。おそらく思考の半分は「アレが来たらどうやって逃げようか」というシミュレーションに忙しい。


「あなただけでなく選手の皆さんも、今日の大会では一段と強くなった様な気がします。これも、アウフヴェルツの『秘密特訓』の成果ですか?」


 エーレの背後で自分達のやり取りに耳を傾けているレングストン家の道場生達を意識し、リップサービスを盛り込むシェルシェ。


「褒めても企業秘密は漏らさないわよ。ちょっとしたヒントからでも、マントノン家はあっと言う間に対策を講じてしまうでしょうし」


「ふふふ、随分と用心深い事ですね。仕方ありません、ミノンがそのアウフヴェルツ仕込みの企業秘密と戦える一年後を、今から楽しみに待つとしましょう」


「ええ、望む所よ、と言いたいけれど、それまでにアウフヴェルツとの提携が消滅している可能性もあるから、保証は出来ないわ」


「ふふふ、アウフヴェルツが幸運の女神エーレをみすみす手放すとは思えません。もっとも、あなたが寿引退で戦えなくなる可能性はあるかもしれませんが」


「来年の大会までにそんな素敵な殿方が現れれば、ね。見込みは薄いけど」


 真っ赤になって反論するかと思いきや、軽く受け流す余裕を見せるエーレ。ちょっとドヤ顔。


「差し当たっては、素敵なライバルが現れた様ですよ」


 シェルシェの言葉にエーレが辺りを見回すと、遠くの方からコルティナが子供さらいの笛吹き男よろしく、報道陣をぞろぞろ引き連れてこちらにふわふわと向かって来るのが見えた。


「マスコミへのサービスタイムね。ま、こちらとしても宣伝になるし」


 そのエーレの言葉が終わるか終らぬ内にパティが動いた。


 ミノンの伸ばした手を紙一重でかわして、シェルシェの横を素早く通り過ぎ、エーレに飛び掛かろうとする。


 が、飛び掛かれない。


 シェルシェが横も見ずに放った拳がパティの脇腹に目にも止まらぬ速さでヒットしていたのだ。


「ぐはっ!」


 膝から崩れ落ちそうになるパティの肩を抱いて無理矢理立たせたまま、


「ふふふ、マスコミの前では笑顔が基本ですよ、パティ」


 シェルシェはそう言い含めると、報道陣を引き連れたコルティナの方に笑顔を向けた。

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