◆367◆
コルティナの優勝が決定した瞬間、ララメンテ家の選手達は手に手を取って喜びの声を上げた。
が、すぐに我に返り「優勝インタビュー」の存在に頭を悩ます事になる。
「この後のアレさえなければ、もっと純粋に喜べるのに」
「本人とお客さんは楽しいかもしれないけど。パンクバンドが演奏中に豚の臓物を投げてその手の客と楽しんでる的な意味で」
「臓物を投げたパンクバンドは強制排除出来るけど、コルティナの悪ノリ一人漫談をどうこうは出来ないからねえ」
「ただいまー、勝ったよー」
猫の首にどうやって鈴を付けようか悩んでいるネズミ達の前に当の猫が呑気に現れるが如く、エーレと健闘を称え合う抱擁を済ませたコルティナが、ふわふわと仲間達の元に帰って来た。
「よくやったわ! と言いたい所だけど、大事なお話があるのでちょっとこっちに来なさい」
「おめでとう! と言いたい所だけど、頭の中までおめでたいのがよくない事は分かる?」
「ウチの道場の誇り! と言いたい所だけど、それには最後の最後までしっかりしてなくちゃいけないよね」
猫にそれとなく鈴の付いた首輪を勧めるネズミ達。
「そうだねー。だから、優勝インタビューでしっかり笑いが取れる様、最後まで気を抜かずに頑張るよー」
しかし猫はそれをことごとくスルー。
「いや、その理屈はおかしい」
「笑いはいらないの。そりゃ、ちょっとした冗談を混ぜる位ならいいけど、全力でガチの漫談をやり抜く必然性はないの」
「普通に、『優勝出来て嬉しいです』とか、『今日まで苦しい稽古に耐えた甲斐がありました』とか、『強敵と競えた事を嬉しく思います』とか、そういうありきたりのでいいから」
「でも、それだけじゃ、せっかく入場料を払ってまで漫談を聞きに来てくれたお客さんに失礼だよー」
「会場のお客さんは皆、剣術の試合を観に来てるんだけど」
「確かにそういう見方もあるねー」
「そういう見方しかないわっ!」
本当はネズミ達も分かっている。猫が自分から鈴を首に付ける事はない、と。
それでも一応釘を刺しておかないと、このふわふわお嬢様はどこへ飛んで行くか分らない。そんな危うさを、つい感じさせられてしまう。
言い換えれば、「ツッコミを入れずにはいられない」人なのだ。昔も今も、多分これからも。
「とりあえずこの件に関しては、優勝インタビューが終わった後にゆっくり考えようよー」
「終わった後じゃ意味ないから!」
ふわふわと鈴を回避したコルティナは、その後、皆が止めるのも聞かずに優勝インタビューを私物化して一人漫談を開始。「こんなデータ分析は嫌だ」ネタでドッカンドッカン笑いを取っていた。
頭を抱えるララメンテ家の仲間達とは対照的に、観客達は大満足の様子だった。