◆366◆
同じ育ち盛りの高校二年生女子ではあるものの、お色気たっぷりの裸ローブCMで良くも悪くも話題になる程に成長したコルティナと、海岸で無邪気に砂遊びをしている水着ポスターが大きいお友達に大人気になる程に成長が見られないエーレとが、互いの健闘を称えるべく試合場の中央で抱き合う姿は、母親に抱きつく幼い娘を見ている様で妙に微笑ましかった。
「だから、頭を撫でるのやめなさいっての!」
「うふふ、撫で易い位置にあるからついー」
変態痴漢常習犯パティ程ではないが、嫌がるエーレをここぞとばかりに撫で回そうとするコルティナ。
「やっぱり、ホームのあなたを倒すのは至難の業だわ」
さりげなく手を払いのけつつ、決勝戦の感想を述べるエーレ。
「アウェイでは二敗してるけどねー。何もかも上手く行かないのが人生だよー」
払いのけられた手で別の場所を撫で回そうとするコルティナ。ある意味、試合はまだ終わっていないのかもしれない。
「そうね。正に今それを実感させられてるんだけど」
しつこく撫でようとしてくる手を防ぎ続けるエーレ。
「今日はかろうじてエーレに勝ったけれど、かなり際どい所だったよー。試合中ずっとエーレの背後にエーヴィヒさんの姿が見えてたしー」
「ストーカーもそこまで来ると生霊ね」
「それともエーレは、『エーヴィヒさん抜きで戦いました』って言うつもりー?」
「剣術に関して色々と協力してもらってる事は認めるわ。剣術『だけ』に関してはね」
「『私の剣術の半分はエーヴィヒさんで出来てます』って認めるのねー?」
「どこぞの頭痛薬じゃないんだから。データ分析で世話になったから、二割位はそうかもしれないけど」
「二人で一緒の目的に向かって、密接な協力関係の下、初めての共同作業に当たったのよねー?」
「何か言い方に悪意を感じるんだけど、まあそういう事よ。剣術『だけ』に関しては」
「エーヴィヒさんを、エーレにとって大切なパートナーとして認めるのねー?」
「認めるわ。剣術『だけ』に関しては」
素っ気なくではあるがエーレが認めた所で、コルティナはようやく執拗な撫で回し攻撃を停止する。
「エーヴィヒさんの事だから、きっと、今この瞬間のエーレの姿も撮影してるよー」
「してるでしょうね」
「エーレの口元をアップにすれば、読唇術が出来る位に鮮明な画像でー」
エーレはそこでハッとして、右手で口を押さえたがもう遅い。
「きっと、今の言葉を喜んでくれると思うよー」
ふわふわとした笑みを浮かべつつ、満足げに頷くコルティナ。
エーレの悪い予感は的中し、後日、
『エーヴィヒさんを、エーレにとって大切なパートナーとして認めるのねー?』
『認めるわ』
のやり取りの部分を抜粋して、その台詞を字幕で表示した編集動画をエーヴィヒから嬉しそうに見せられ、
「光栄の至りです、エーレさん」
「そこだけ切り取るなあ!」
テーブルを、バンッ、と叩いて逆上したと言う。
「コルティナとエーヴィヒが自分を陥れるべく実は裏で結託しているのではないか」、という疑惑がエーレの中で浮上。