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エーレとコルティナという二大瞬殺マシーンは別格として、マントノン家、レングストン家、ララメンテ家の普通の選手達の試合の概況に目を向けるならば、
「去年はホームだと強いララメンテ家が優勢だったのが、今年はレングストン家も負けていない。この一年で、バックに付いているアウフヴェルツが、データ分析の質をここまで向上させたという事か」
観客席でやや渋い表情のミノンが漏らした言葉と、
「片や私達マントノン家はデータ分析の分野で、ララメンテ家とレングストン家にかなりの遅れを取ってしまった様です」
双眼鏡でエーレをロックオンしつつ他の可愛い選手達のチェックにも余念がないパティの言葉に、ほぼ総括されていた。先のレングストン家の大会同様、中盤でマントノン家の選手達は姿を消していたのである。
「ふふふ、いっそ、全員二刀流で出場させた方が、データ分析の裏をかけたかもしれませんね」
無念を隠しきれないミノンと邪念を隠し通しているパティを両側に従えたシェルシェが、身内の劣勢を目の当たりにしてなお涼しげな笑顔を作り、自虐的な軽口を叩いてみせる。
「そんな器用な真似が出来るのはパティだけだ」
頭をかきつつボヤくミノン。
「エーレは二刀流仲間が増えて、さぞ喜ぶでしょうけれど」
そのエーレを双眼鏡で追尾しながら、しれっと軽口を返すパティ。
「データ分析だけでなく、やはりエーレとコルティナの存在も大きいのでしょう。以前にも話した様に、『自分達には強力な将がついている』という心強さが、兵の士気を高めるのです」
そう言って、ミノンの方を意味ありげに見るシェルシェ。
「つまり、『来年はお前がその将の役をやれ』、という事だな?」
この手の話題にだけは、やたら察しがいいミノン。
「ふふふ、実の所、私はまだデータ分析主義に懐疑的なのですよ。マントノン家の当主がこんなに頑固ではいけないと分かってはいるのですけどね」
シェルシェは妖しさを増した笑みを浮かべつつ、今度はパティの方に向き直り、
「そして、あなたは引き続き中学生の部を制圧するのです」
と、世界征服を企む悪の組織の首領の様に指令を下す。
「はい、分かりました。お姉様」
双眼鏡を下ろし、板についた営業用スマイルで姉に微笑み返すパティ。邪な事なんか何もしてません、と言わんばかりに。
ただ、この姉に見透かされた様な気がして、ちょっと心臓がバクバクしていたかもしれない。
可愛い女の子ウォッチングの方が、マントノン家の三女としての誇りより大事なパティだった。