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その年の三大会を通して中学生の部を完全制圧したマントノン家も、高校生の部ではレングストン家のエーレとララメンテ家のコルティナという化け物に対抗し得る術がなく、完全制圧されたまま終了する事がほぼ確実視されていた。
そして、その二人の化け物のどちらが大会の最後を制するかについては、
「自分の所の大会で四年連続優勝してるコルティナだろ。あのふわふわ魔女は、自分の所ではシェルシェ以外に負けた事がないし。自分の所では」
そこだけ聞くとまるでハウス最強内弁慶扱いのコルティナが有利と見られており、
「いや、噂じゃ、エーレはCMに出てるアウフヴェルツ社に協力してもらって、かなりハイテクな特訓をやってるらしいぞ。これまでの試合のデータを分析して作成した3DCGのコルティナ相手に必殺技を編み出しているとか」
そこだけ聞くとまるでトレーニングモードでコンボ練習に励む格ゲーマー扱いのエーレについても、三冠達成の可能性がなくはない、位には期待されている。
「どちらが勝っても大黒字は既に確定済み。と言う訳で、今年もお疲れ様でした!」
そんな御三家の名誉にも大きく関わる勝敗の行方にやきもきする事もなく、巨大会場を一杯に埋め尽くす観客を見て大いに満足し、スタッフ用の控室に集まって試合開始前に早々と祝杯を上げるララメンテ家の経営陣の皆さん。彼らは毎年ブレる事がない。
「そんな経営陣の皆さんの為にも、今日は頑張ろうねー」
試合前、ララメンテ家の選手達にそう言い渡すコルティナに対し、
「いや、モニターで試合を横目に見ながら昼間っから飲んだくれてるオヤジどもの為に、あまり頑張りたくないわ」
選手達の一人がツッコミを入れ、どっと笑いが起きる。
「じゃあ、経営陣の皆さんの不埒な悪行三昧は後で成敗する事にして、今は大会に集中しようねー」
「いや、あの人達も成敗される程の悪い事はしてないと思う。一応、仕事はきっちりしてくれた訳だし」
「大会が終わったら、皆で襲撃をかけるのー。『天誅じゃあああ!』って叫びながら、逃げ惑うおじさん達を剣でビシバシとシバき倒してー」
「鬼かあんたは」
「でも、女子高生に剣でシバかれるのって、ある意味ご褒美かもー。『ありがとうございます! ありがとうございます!』って喜んでくれたりしてー」
「どんだけ変態なんだ、ウチの経営陣」
「これは変態度を確認する意味でも、一度試してみる価値はあるねー」
「ねえよ」
その頃、当のほろ酔い気分の経営陣の皆さんは、自分達が変態扱いされているとも知らず、
「コルティナお嬢様が仲間達に何か言って、ドッカンドッカン笑わせてるぞ」
「試合前の緊張をほぐそうと気を遣ってるんだろうよ」
「ははは、本当に楽しそうだな。一体どんな愉快な事を言ってるんだろ」
モニターを見ながら陽気に浮かれていた。
知らぬが仏。