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「で、ここからが本題ね。来月のララメンテ家の大会なんだけど、みんなの予想通り、シェルシェが『参加する』って言って来たの」
ふわふわとした口調で、コルティナはまだ世間に発表されていない内部情報をリークした。
「レングストン家だけじゃ飽き足らず、ララメンテ家も席巻しようって腹ね」
興味を示したエーレに対し、コルティナは意味ありげに微笑んで、
「だから、エーレもウチの大会に参加しない? 上手く行けば、この間の試合のリターンマッチが出来るかも」
「やっぱり、そう来るのね。せっかくの申し出だけれど、今回は見送らせてもらうわ。三家の令嬢揃い踏みとあれば、興業的には大成功間違いなしでしょうけれど、商売第一で武芸の本分をおろそかにしては、却ってウチのイメージが悪くなりかねないから」
「えー、そんな事ないと思うよー。お客さんは喜んでくれると思うけどなー」
「シェルシェに惨敗した以上、碌に対策期間も置かないまま、もう一度やみくもに挑んでも、あまりいい結果は出せそうにないわ。ウチの上位陣も大体同じ考えだから、出るとしたら、中堅どころが腕試しに参加する位ね」
「残念。ララメンテ家にとって、一大ビジネスチャンスだったのにー」
「二冠を達成したシェルシェが参加するだけでも、話題性は十分だし、結構な儲け話でしょう。それと商売は商売として、あの魔物には対策を十分にしておかないと、ウチの二の舞になるわよ。気を付けて」
「それなら、大丈夫。もうみんな、シェルシェ対策に絞って、猛特訓を始めてるの」
「期待してるわ。ウチはシェルシェのあの鬼気迫る気迫にやられちゃった子が多いから、メンタル面の方もしっかりやっておいた方がいいわよ」
「それも大丈夫。恐怖心を克服する為に、定期的にホラー映画の観賞会を開いてるから」
「は?」
「今日もここにDVDを持って来たの。一緒に見ようと思って」
コルティナは持参したバッグの中から、黒みがかったDVDを取り出して、嬉しそうにエーレに見せた。
タイトルは、『歩く甲冑 ~呪われた剣士の亡霊が首を斬りにやって来る~』、で、パッケージの表には、暗闇の中で銀色に輝く甲冑の全体像が写っており、その肩越しに白い人の顔の様な得体の知れないモノが不鮮明に見える。
そんなちょっとした古い心霊写真風なパッケージを一目見て、エーレは血の気がさっと引いた。
「え、遠慮しておくわ。そ、そういうのあまり趣味じゃないし」
懸命に平静を装いつつ、断ったものの、
「怖いの?」
と、見透かした様にふわふわとした笑みを浮かべて言うコルティナに、少しむっとして、
「こ、怖くなんかないわよ! 子供じゃないんだから!」
「じゃ、一緒に見ても平気よねー?」
「当然よ!」
言ってしまってから、激しく後悔するエーレだった。




