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「今年の三大会を通して、ミノンとパティは他家のデータ分析に負けず、最後までよくやってくれました。中学生の部はマントノン家の完全勝利と言えるでしょう」
マントノン家の書斎で前々当主クペに戦果を報告する、現当主シェルシェの声は少し弾んでいた。
「その二人の妹の姿が見えない様だが」
が、その報告を受けるおじいちゃまの声は少し沈んでいる。
「パティは大会終了後、敬意を表して会いに来てくれたエーレに公衆の面前で堂々と痴漢行為を働いたので、地下倉庫に監禁しています」
「またか」
ため息をついて、頭を抱えるおじいちゃま。
「ミノンがちょっと油断して目を離した隙に、エーレに飛び掛かって行ったそうです」
「散歩中の落ち着きのない犬だな、まるで」
「明日のスポーツ新聞には、エーレにがっちり抱きついて頬ずりしているパティの写真が載る事でしょう」
「記者もいたのか。まあ、その二人が一緒にいる所を見逃す手はないが」
「マスコミを意識して、二人ともカメラ目線で笑顔を作っていた様ですが、よく観察すれば、邪欲丸出しのパティと困惑しつつも恥辱に耐えているエーレの表情が読み取れるでしょうね」
「悪い噂が立たなければいいのだが。で、ミノンはどうした? 決勝で敗れて三冠を逃した自分を戒めようと、早速稽古場で鍛錬に励んでいるのか?」
「いえ、決勝戦の興奮が未だ冷めやらず、『パティと話をさせて欲しい。今日の大会についてもっと存分に語り合いたい』、とせがむので」
「お前がそう簡単にパティの監禁を解く訳がないな。で、ミノンはそれを不満に思ってふてくされているのか」
「特別にミノンの願いを聞き入れて、パティと一緒に仲良く地下倉庫に閉じ込めておきました」
「恐怖政治下の秘密警察か、お前は」
微笑みを浮かべながら淡々と報告するシェルシェに、おじいちゃまは、やれやれと首を横に振る。
「一連の大会でマントノン家に最大の貢献を果たしてくれた剣士二人が、いたずらをしたやんちゃ坊主の様に地下倉庫に閉じ込められているとは、情けない話だ」
「貢献は貢献、罰は罰、です」
そんなおじいちゃまに優しい声で諭すシェルシェ。
声は優しいが、主張は恐怖政治。