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大会当日まで屋敷に戻らず人里離れた山奥の別荘に籠り、指導員達と共に秘密特訓を重ねて練磨した二刀流で、他家のデータ分析をあっさり無効化してみせた「大道芸人」パティ。
本部道場での日々の稽古を怠ることなく、そこで鍛え抜かれたお馴染みの戦闘スタイルを崩さず、他家にデータ分析され尽くしてなお難攻不落の貫録を示した「巨大怪獣」ミノン。
今年は既に、このマントノン家の姉妹対決が先の二大会で実現しており、いずれも姉のミノンの勝利で終わっていた為、
「こりゃ、またミノンが勝つぜ。慣れない二刀流じゃあ、あの『巨大怪獣』には通用しないだろう」
「ここまでの試合を見ても、絶好調のミノンと後半に入って押され気味のパティじゃ、パティの方が分が悪いもんな」
「ミノンには三冠も懸かってるし。八百長じゃなくても、妹が空気を読む位の事はするかもしれん」
今回もミノンが勝利し、三冠達成の瞬間に立ち会う事が出来るのでは、と観客達の多くが遠足の前日の子供の様に期待に胸を膨らませていた。
その一方で、
「パティは今日まで姉との接触を一切絶って、秘密特訓をやってたって噂だぜ。単にレングストン家とララメンテ家のデータ分析の裏をかくだけだったら、そこまで用心しなくてもいいだろ」
「同門の姉妹でお互いに手の内を知り尽くしている以上、新しい切り札を手に入れたパティが有利かもしれないなあ」
「つまり、パティはミノンをブッ倒す気満々て事か。派手な姉妹ケンカになりそうだぜ」
パティの勝利による大番狂わせを予期する観客達も少なからずいたが、結局の所、
「どっちが勝っても負けても、楽しめそうな大一番だ」
という点では皆一致している。
この場の主役である二人の姉妹が試合場に進み出て、互いに礼の後、四メートル程の距離を取って向かい合うと、興奮を抑えきれない人々の歓声があちこちから湧き上がった。
剣を上段に大きく振りかぶって構えるミノンと、左手の長剣と右手の短剣を交差して前に突き出す様に構えるパティ。パッと見には、ミノンが打ち下ろす剣をパティが待ち受ける形である。
少しずつ立ち位置を変えながら様子を窺うミノンに対して、パティはほとんど動かずに待ち構えていたが、不意にミノンが怪獣の咆哮の様な気合いの声と共に飛び込んで来る。
頭上を狙って鋭く振り下ろしたミノンの剣を、パティは十字に交差した二剣を素早く持ち上げて受け止め、次の瞬間、短剣で相手の剣を受けたまま、体勢を低くして回転し、長剣でミノンの左胴を打つ。
突進の勢いが止まらないミノンの巨体が衝突して、二メートル程弾き飛ばされながらもパティは倒れず、ミノンの方に向き直って二剣を十字に突き出した後、ようやく今の一本が認められ、この「大道芸人」の巧妙な技に、観客席から大きなどよめきと割れんばかりの喝采が巻き起こる。
両者初期位置に戻って試合が再開されるや、ミノンは慎重な態度を捨てて猛攻に転じたが、パティは二剣を強固な防御として使い、一本が中々決まらない。
そのまま時間切れとなって、一本先制していたパティの優勝が確定する。
互いに礼の後、防護マスクを取ったミノンの顔を双眼鏡で見た観客席のエーレは、
「『負けて悔しい』が三割、『妹ながら天晴れ』が二割、残りは全部、『今日も一日楽しかった』って所ね」
と、その表情を分析した。
脳筋の考えている事は、単純明快で非常に分かり易い。