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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第十一章◆◆ 姉より優れた妹が存在するかどうかについて 
354/635

◆354◆

 その後も「大道芸人」パティは、公式試合ではあまり見られない多種多様な二刀流の構えで試合に臨み、戸惑う対戦相手を翻弄しながら順調に勝ち進んで行った。その姿はまるで、「通行人にクイズを出し、解けないとその通行人を食ってしまう魔物」の様。


 このケレン味たっぷりなパティの演出に観客達がワクワクさせられる一方、他の出場選手達は軽いパニックに陥っていた。


「データ分析が全部無駄になっちゃった」

「せめて普通の二刀流ならエーレさんに稽古してもらった事もあるけど、あんな奇妙な二刀流は見た事ない」

「どう攻めたらいいのかまったく分からないよ。難解なパズルを次々と突きつけられてる感じ」


 エディリア剣術界きっての二刀流剣士エーレを擁するレングストン家の選手達も、このパティの変幻自在な二刀流の前には為す術もなく、


「『パティは今回二刀流で来るよー』っていう、コルティナさんの大予言は確かに当たったけど」

「戦闘スタイルが一新してるから、予言が当たっても意味ないし」

「予言が当たってる分悔しいわ。ヤマを張ったすぐ隣の部分がテストで出題された感じ」


 エディリア剣術界きっての分析魔コルティナに策を授けられたララメンテ家の選手達もまた、パティに一枚上手を取られて万事休す、といった態である。


「惑わされないで! 落ち着いて向かって行けば、まだ勝機はあるわ!」


 観客席から声を張り上げるものの、他の歓声にかき消されてしまうエーレ。


「だが、相手はパティだ。落ち着いた所で、やはり難しい局面である事には違いない」


 隣のティーフは、もうかなり悲観的になっている。


 しかし、エーレはそんなティーフを咎めず、ため息を一つついて、観客席を見回し、


「他力本願だけれど、コルティナの奇策に期待するしかないわね」


 遠くからでもよく目立つ、トンガリ帽子の魔女に視線を向けた。


 そして、当のふわふわ魔女ことコルティナは、


「まさかここまで持ちネタをひねってくるとはねー。さすが変態さんのやる事は一味違うよー」


 呑気に麩菓子を食べながら、パティのやり口に感心しつつ、後輩達のピンチを平然と見物している。


「いや、他人事みたいに言われても」

「一応指導したのはあんたでしょうに」

「とりあえず、あの子達を落ち着かせないと。何か手はないの?」

 

 半ば呆れつつも、期待の目でこのふわふわ魔女を見る仲間達。経験上、コルティナがこういう風に呑気に構えてるのは、何か企んでいる時だと分かっている。


「じゃ、いつもの横断幕いってみよーか」


 足下に置いてあった紙袋から畳んだ横断幕を取り出し、仲間にそれを広げて持つ様に頼むコルティナ。広げられた横断幕には大きな文字で、


「麩菓子ダイエット」


 と書かれていた。


 いつもなら仲間達が、「そういうのはもういいから」、と総ツッコミを入れる所だが、


「しょうもないボケをかまして、選手達の動揺を鎮めようって作戦ね」


 藁をもすがりたい状況の今、コルティナを信じて、少し恥ずかしさを覚えながらも堂々とこの横断幕を掲げる事にする。


 期待通り、横断幕に気付いた選手達は一人また一人と不意を突かれて噴き出してから、少しずつ落ち着きを取り戻して行った。


 選手達だけでなく、会場のあちこちからも、


「またコルティナが変な事やってるよ」


 と、クスクス笑いが聞こえて来る。


「これで、あの子達が自分を取り戻してくれるといいけど」

「妙な構えに惑わされなければ、もうちょっと試合らしくなるでしょう」

「コルティナも、毎度毎度、よく考えるわね」


 笑い者にされながらも、コルティナの手腕に感服する仲間達。


「あ、この横断幕、裏と表を間違えてる。みんなー、お手数だけど、もう一度引っくり返してもらえるー?」


 しかしコルティナの何気ない一言で、その感服は一瞬にして嫌な予感へと変わる。おそるおそる横断幕を引っくり返してみると、そこには、


「諦めず最後まで頑張れ!」


 堂々と掲げても恥ずかしくない、ごく普通の応援文句が書かれていた。


 これらを繋げて読むと、


「麩菓子ダイエット、諦めず最後まで頑張れ!」


 怪しげなダイエット中の女の子を応援している謎の団体になってしまった。


 結果、「自分の所の大会で、あいつら一体何やっとんじゃ」、と場内大爆笑。


 この理不尽な辱めに耐えて表情をひきつらせるララメンテ家の応援団の中で、


「うんうん、結果オーライだよー」


 一人コルティナだけは満足げな笑顔で麩菓子をサクサク食べていた。

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