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頭を空っぽにしてマントノン家の二人の強豪の活躍を楽しむ展開となった中学生の部が大盛況のうちに終わると、続く高校生の部でも、
「今日も頭を空っぽにしてエーレとコルティナの活躍を楽しもう」
今度はレングストン家とララメンテの家の二人の強豪の活躍を心行くまで楽しもうと、観客達はこぞって巨大会場に押し寄せた。圧倒的強者は大衆を魅了するのである。
さらにもう少し事情に詳しくなると、
「エーレとコルティナが指導した選手達が、それぞれどういう戦い方をするのかも気になる」
「レングストン家とアウフヴェルツ家の連合軍対ララメンテ家のデータ分析勝負でもあるからな」
「アウフヴェルツの科学が勝つか、ララメンテ家の魔女が勝つか」
などという楽しみ方もあるが、
「マントノン家は……まあ、この前の大会では何とか頑張ったけど、今回はどうかな」
「データ分析だと、一歩も二歩も後れを取ってるのは否めない」
「パティやミノンみたいに突出した選手がいれば話は別だが、前の大会の様子を見るに望み薄だろうよ」
その一方でマントノン家に関しては、やられ役のエキストラ位にしか認識されていなかったりしていた。
そして悲しい事に、試合は観客達の期待を裏切らない形で着々と進行している。
「残念だが、ウチの選手達の旗色は悪いな」
観客席で腕を組みつつ渋い表情のミノン。
「ホームの試合という事もありますが、エーレを筆頭にレングストン家の選手達がやや優勢です」
双眼鏡で休憩中のエーレをロックオンしつつ、現在の状況について分析するパティ。
「こちらの選手達は皆、『ここで勝った所で、いずれエーレかコルティナに負けてしまう』という、心理的なマイナス面に引きずられてしまっているのかもしれませんね」
そう言って双眼鏡を一旦下ろし、試合場全体を概観するシェルシェ。既にマントノン家の選手達の多くが、中盤までに敗退して姿を消してしまっていた。
「そんな風に後向きに考えないで、目の前の一試合一試合に全力でぶつかって欲しいものだが」
脳筋思考のミノンがもどかしげに言うと、
「理屈で分かっていても、心は御しきれないものですよ」
そう言って、シェルシェは少し悲しげに微笑んだ。
「レングストン家もララメンテ家も、『敵側の強豪に勝てずとも、疲れさせるなり、手の内を晒させるなり出来ればよし』、と前向きに敗北をとらえられますからね。味方の強豪が後に控えている安心感がある分」
休憩を終えて試合に向かうレングストン家のちっちゃな強豪の姿を追いながら、敵側の心理を推察するパティ。
「モチベーションの維持が、次回までの課題ですね」
シェルシェは笑みを浮かべたまま、パティの方を向いて、
「くれぐれも間違った方向にモチベーションを向けてはいけませんが」
と、それとなく釘を刺すも、
「その通りですね、シェルシェお姉様」
ちっちゃいエーレを遠くから双眼鏡で観察し続ける変質者は、あさっての方向にモチベーションを維持する事に余念がない。
シェルシェは何かを諦めた表情になり、試合場のエーレに目を転じた。