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「決して、マントノン家の選手が弱体化したという訳ではありません。エーレとコルティナがこの一年で強くなり過ぎたのです。高校生の部という枠内に収まりきらない程に」
その夜、マントノン家の屋敷の書斎で、当主シェルシェが前々当主クペに報告した。
「『超高校級』とは正にあの二人の事だな。流派がどうこう言う以前に、個としての才が極端に突出してしまっている。あれでは同年代の他の剣士達がまるで歯が立たないのも無理はない、が」
クペは半ば感服した様子で椅子の背にもたれ、
「返す返すも残念に思うのは、このマントノン家にもその二人に勝るとも劣らぬ突出した才を持つ剣士がいるのに、彼女を大会に投入する事が出来ないという、その一点に尽きる」
苦笑しつつ、愛しい孫娘の顔をつくづくと眺めた。
「ふふふ、ありがとうございます、おじい様。当主の座とはまこと不自由なものですね。目の前であの二人の見事な戦い振りを見せつけられる一方で、自身は最初から最後まで大人しく座っている事に耐えなければならないのですから」
瞳の奥に闘志の炎を燃やしつつ、表面的には穏やさを保ったままでシェルシェが言う。
「当主の才と、剣の才。せっかく天が二物を与えたというのに、運命のいたずらによって、片方を制限しなくてはならないのも皮肉な話だ」
「全てはマントノン家の為です、おじい様。ままならぬ運命を嘆いても仕方ありません」
「ああ、その通りだ。本当にお前は強く育ってくれたなあ」
少ししんみりとした口調になるおじいちゃま。涙もろいお年頃。
「それに何より、エーレとコルティナの活躍のおかげで今年の大会も大黒字ですし」
「……本当にお前は強く育ってくれたなあ」
誇り高き剣士であると同時にシビアな商人の顔を持つシェルシェの力強い一言に、涙も引っ込むおじいちゃま。
いや、確かに誇りだけで道場経営は成り立たないけど。