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「今後も、お前のキャラクターに惹かれて、レングストン家に入門を希望する者が増加する事は間違いない。武人としては面白くないかもしれないが、そこはお前もレングストン家の一員として割りきって欲しい」
「私は客寄せのマスコットですか」
父ムートの言葉に、大きなため息をつくエーレ。段々、ツッコむのにも疲れて来たらしい。
「マントノン家のシェルシェに対抗出来るのは、お前しかいないのだ。キャラクター商法的な意味で」
「まさか変なグッズとか作って、売り出そうとしてないでしょうね」
「それはいいかもしれない。とりあえず、お前を萌えキャラ化したフィギュアを作ってみようか」
「絶対にやめてください。レングストン家の恥です。もしお父様がそんな暴挙に出たならば、私は迷わず、その商品倉庫ごと焼き払います」
「大きいお友達にアピールする、いいアイデアだと思うんだが」
「そんな得体の知れない友達は要りません」
「絶対売れると思うんだがな。まあ、いい。そんな訳で今後お前にも、レングストン家の広報活動に色々協力してもらう事になるかもしれないが、よろしく頼むぞ」
「不本意ですが、承知しました。道場生が増えれば、結果的に剣術のレベルも自ずと向上する事でしょうし」
「マントノン家の強みは選手層の厚さによる所も大きいからな。ところで、お前は来月行われるララメンテ家の大会に出場するのか?」
ムートの何気ない問いに、エーレは少し表情を引き締め、
「元々、私は他家の大会に参加するつもりはありません。もし参加するとしたら、それなりに入念な準備が必要です」
「お前が床に叩き付けた新聞のどれかに、お前とシェルシェが大会に参加を表明した記事が、載っていた気がするのだが」
エーレは足の下に踏み付けていたスポーツ紙を取り上げ、皺を伸ばしてからテーブルの上に置き、
「お父様が仰っているのはこれの事ですか?」
「おお、それだ。ちゃんと書いてあるだろう」
そこには大きな見出しで、「マントノン家令嬢とレングストン家令嬢、共にララメンテ家の大会に参加を表明」、とあったが、
「よく見てください」
その文の下の、エーレが指し示した場所に小さく、
「か!?」
と付け加えられている。
「気が付かなかった」
呑気なムートに、エーレは、
「このスポーツ紙に関しては、日付以外、何も信用してはいけません」
と冷ややかに言い放った。




