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「パティとミノンは実に見事な活躍だった。クジ運さえ良ければ決勝戦で当たって、優勝と準優勝を姉妹で独占出来ただろうに」
マントノン家の屋敷の書斎で椅子にもたれながら、祖父バカモード全開の前々当主クペが、今日の大会の感想を満足げに述べる。
「そうですね。自家の大会というホームの有利に加え、三大会の一番最初でデータ分析があまり機能していない事を差し引いて考える必要はありますが」
そんな嬉しそうなおじいちゃまを優しく見詰めながら机を挟んで立ち、微笑みつつも妹達の大戦果に驕るまいと用心する現当主シェルシェ。
「お前は厳しいな。まあ、何事も冷静に判断出来るのはいい事だ」
「パティもミノンも残りの二大会こそ本番と心得ている事でしょう。今日の試合を見た限りでは、勢いに乗ったあの二人を倒し得る程の選手は見当たりませんでしたが、油断は禁物です」
「そうだな。特に若者の場合、短期間で急に成長する事も珍しくはない。私の様な老人からすれば羨ましい限りだよ」
「ふふふ、おじい様はまだまだお若いですよ」
「嬉しい事を言ってくれるな。だが、流石に十代のお前達の様にはいかん。しかし、ついこの間まであんなに小さかった三人の孫娘が、今やエディリアに知らぬ者のない立派な剣士に成長したものだなあ」
「すぐに、そこへヴォルフが加わりますよ」
「ぜひそうあって欲しいものだ。ところで、スピエレ達にヴォルフを大会会場に連れて来ない様に言い渡したらしいな?」
「ええ。何と言ってもまだ三歳ですし、長時間あの喧騒の中で、遠い所から試合を見せても何が何やらよく分からないでしょう。ヴォルフには後で編集した試合の動画を、私が解説しながら見せます」
「マントノン家の剣術全国大会をマントノン家の当主の解説付きで観られるのか。何とも贅沢な鑑賞会だ」
「都合が付けば、パティとミノンにも同席させるつもりです」
「ゲストも豪華な顔ぶれだな。テレビ番組が一本出来てしまうぞ」
「ふふふ、大金を積まれても世間に公開する気はありません。次の大会に備えてのデータ分析も兼ねていますから」
そう言って怪しく微笑むシェルシェに、クペは頼もしいやらおぞましいやら、ちょっと複雑な感情を抱く。
やろうとしている事は別に違法行為でも何でもないのだが、何と言うか魔に魅入られてる感じがして怖い。
孫娘が引きつった笑みを浮かべながら真剣に黒魔術の儀式をしている現場に出くわしたら、どんなに理解のあるおじいちゃんでもぞっとするだろう。そんな感じ。