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妹の「大道芸人」パティを倒した後、「巨大怪獣」ミノンはそのまま勢いに乗って、準決勝、決勝も難なく制し、ついにマントノン家の大会の中学生の部における三年連続優勝の栄光に輝いた。小学生の部も加えれば、五年連続優勝の快挙である。
戦いを終えて優勝インタビューに応じるミノンは実に嬉しそうであったが、驕り高ぶった所はなく、
「もっとも、私の体格では中学生に見えないかもしれませんが」
などという冗談も飛び出し、場内をどっと沸かせる一幕もあった。
「自分にしか使えないネタを持ってる芸人は強いねー」
観客席で魔女のコスプレをしていたコルティナが、妙にズレた所で感心する。
「いや、芸人じゃないから」
周囲の仲間達から、いつもの様にツッコミが入る。
「ミノンに比べれば、私なんかごく普通の女子高生だしー」
「その格好で言われても説得力ないんだけど」
「この程度のコスプレなんて誰でも出来るよー。もっと凝った着ぐるみの方が良かったかなー」
「美少女剣士が色物勝負で張り合ってどうする。それに実績から言えば、コルティナだってウチの大会の中学生の部で三連覇してるじゃない。今年勝てば高校生の部も入れて五連覇でしょ」
「勝負は時の運だからねー。今年はどうなるか分らないよー」
「そんな弱気にならずに五連覇目指して頑張って。ウチの道場の名誉がかかってるんだから」
「それより、ウチの選手全員が『五連覇を阻止してやる』位の覚悟で大会に臨んで欲しいなー」
「あ、コルティナが珍しくいい事言った」
「今日のミノン対パティも、『三連覇が懸かってるから、姉に勝ちを譲ったんじゃないか』、って噂があったけど信じない様にねー。あの二人がそんな事をするはずないし、試合を見てもガチでやってたのが分かるからー」
「コルティナがそう言うなら、信用するわ」
「それに、もし試合で手を抜こうものなら、二人共後でシェルシェにこっぴどく怒られるからねー」
「それは本当に怖そう」
「怖いよー。そしてお説教の後、お屋敷の地下に閉じ込められて、何の役に立つのか分らない巨大な装置を不眠不休で回し続ける刑に処されるんだからー」
「何その昔の冒険映画に出て来そうなベタなシーン」
「足腰も鍛えられて一石二鳥だねー」
「普通にトレーニングした方が効率いいと思う」
放っておくとコルティナの与太話は、周囲の思惑を無視してどんどん剣術と関係ない方に転がって行く。