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予想通り、その年のマントノン家の剣術全国大会の小学生の部は、パティが中学生の部に移ってしまった影響を受け、昨年までの大盛況が嘘の様に客が減少する。
それでも、主催者側がこの事態を見越して会場の規模を小さくした結果、観客席も七割程が埋まっており、特にガラガラ感はなく寂れた感じもしなかった。
「この位の方がやり易いかもね。去年まで、どこの大物アーティストのライブ会場だよ、って感じだったから」
「ただ、会場が狭くなった分、一度に消化出来る試合数が減ったけど」
「次の試合までのんびり出来ていいじゃん」
会場が小さくなっても選手達はさほど気にしていない様子で、観客の大半を占める身内に応援されながら、ある意味昨年よりのびのびと試合に臨んでいた。
「いい雰囲気ね。やっぱり、武芸はあまり商売っ気を出すべきではないわ」
レングストン家の選手達の応援に来ていたエーレが、隣のティーフに話しかける。
「だけど、ちょっと可哀想な気もするな。大舞台ならではの緊張感や興奮も、それはそれで捨て難いから」
ティーフが少し寂しげな表情で答える。
「あなたまでそんな感想を抱く所を見ると、世間の注目を集める事は武芸者にとって危険な誘惑なのかもね。さらにそこへお金が絡むと、道を踏み外しかねないわ。かつて、マントノン家で造反を企てた人気選手の様に」
「そんな人達もいたね。皆、哀れな末路をたどったけれど。でも、私は大丈夫。そこまで人気も才能もないから。造反なんか企てないよ」
軽く笑ってみせるティーフ。
「人気や才能を語るには、私達はまだ若すぎるわ。剣術は一生かけて修練するものでしょう」
「はは、そうだね。私もショービジネスに毒されたかなあ」
「あそこに、あなた以上に毒されている人がいるけどね」
エーレの視線の先には、ララメンテ家の応援団がおり、その中で一人魔女のコスプレをしているコルティナの姿があった。これ見よがしに特大麩菓子を食べている。
「ショービジネスに毒されているというより、あの人自体が既に一つのショービジネスになってる気がする」
そう言って、ティーフは苦笑しつつ、
「でも、不思議と危うい感じはしない。全部分かり切った上で、あえてそこに乗っかっている様な安定感がある」
と付け加えた。
「私やあなたとは別の次元にいるんでしょうね。あの魔女は」
エーレが笑う。
「いや、エーレも十分ショービジネスになってると思うけど。キャラクターグッズも一杯出てるし」
何気ないティーフの言葉に、
「ショービジネスは猛毒だわ」
笑顔が消えて少しナーバスになるエーレ。