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「人の事言ってる場合じゃないでしょう。私が二十七歳の時、あなた達だって二十七歳じゃない」
シェルシェとコルティナの二人から、いいオモチャにされつつあるエーレが、果敢に反撃を試みる。
「私は『永遠の十七歳』で押し通すから、大丈夫ー」
「あんた、どこの国の声優よ」
コルティナのふわふわなボケに即座にツッコむエーレ。
「一応名家の令嬢なんだから、政略結婚の駒として強制的に嫁がされてる頃でしょうに」
「ウチはそんな人道に反する強制はしないよー。『あなたの好きな様に生きなさい』って感じだねー」
「放任主義ね。でも、そうは言っても無言の圧力とか」
「ないよー。そもそも私に意見する人なんていないしー」
「何か、十年後も独身で今と同じく女子会三昧のあなたの姿が見える様な気がするんだけど。他人事ながら心配になって来たわ」
「逆に十代なのに、そこまで心配するエーレの方が変かもー」
「ふふふ、既婚者が未婚者におせっかいしたがるのはよくある話です。素敵な婚約者がいる人もまた然り、ですね、エーレ?」
シェルシェが横から口を挟む。
「何度も言うけれど、アレとは婚約してません。あなたこそどうするつもりよ。二十七歳になっても、まだヴォルフは十三歳でしょう。当然、当主の座を継ぐにはまだ早いし」
「となると、婿養子を迎えるのー?」
エーレとコルティナの問いに、
「ふふふ、ヴォルフに次期当主の座を譲るまでは、結婚などしていられませんよ」
さも何でもない事の様に答えるシェルシェ。
「三十過ぎまで結婚しないつもり?」
エーレが驚いた様に言う。
「晩婚化が進んだ昨今、それほど珍しくないけどねー」
コルティナがふわふわとフォローする。
「当主たるもの、『私』を捨て『家』の為に生きる覚悟は出来ています」
マントノン家の現当主シェルシェが重い決意を表明する。
「大丈夫、シェルシェだけを独身にしないから。私も一緒に独身でいてあげるからねー。女の友情だよー」
ふわふわと身を乗り出し、シェルシェの手を取るコルティナ。
「お気持ちだけ受け取っておきましょう、コルティナ。で、本音は?」
「素敵な美青年に成長したヴォルフ君を私にください、お義姉様」
「ふふふ、一生独身のまま死ぬまで女子会を楽しんでください」
笑顔で令嬢漫才を続けるこの二人に、ツッコむべきかツッコまざるべきか悩むエーレだった。