◆332◆
「私達とて、いつまでも若くはありません」
まだ高校二年生の小娘シェルシェが、妙齢のお姉様方が聞いたら激昂必至な言葉を口にした。
「『美少女剣士』として通用する期間の話ね」
シェルシェの発言の意図をちゃんと理解した上で、エーレが補足する。
「魔法少女もののヒロインと似てるかも。魔法少女が少女でなくなったら、『いい歳して何やってんだ』って視聴者にツッコまれそうだよねー」
そしてコルティナが、二人の言った事を曲解して茶化しにかかる。
「そもそも、この『美少女剣士』ブーム自体、いつまで続くか分かりませんし」
決して現状を楽観しないシェルシェ。
「個人的には、その『美少女』って部分だけ削除したい所だけれど。もっと皆、見た目でなく剣術自体に興味を持ってくれないものかしらね」
ちっちゃくて可愛い見た目とは裏腹に、根は剣術一直線のエーレがため息をつく。
「エーレに関しては、ちょっと無理な相談だねー」
コルティナがニヤニヤしながら言う。
「どういう意味よ」
「エーレを見ると、ちっちゃい子は親近感を持つしー、大きいお友達は庇護欲をかきたてられずにいられないって話」
「要するに、私の見た目が子供っぽいって言いたいのね」
少しむくれるエーレ。本人も気にしているらしい。
「ふふふ、エディリア剣術界を今後十年支えてもらえるなら、エーレに感謝しますよ。私はその間に、例の『統一ルールの下でのスポーツ化した剣術』の準備を整えられますから」
シェルシェがいつもの野望を持ち出した。
「十年経っても『美少女剣士』って、もうタチの悪いジョークにしか聞こえないわ。その時、私達は二十七歳じゃない」
エーレが呆れた様に言う。
「エーレはもうアウフヴェルツ家に嫁いでる頃かー。子供もいたりしてー」
コルティナがわざとらしくしみじみとした口調で言う。
「何でアウフヴェルツ家限定なのよ!」
「アウフヴェルツ家にとって、エーレは大功労者だからねー。もっと言えばCMの女神様」
「じゃあ、あなたは自分がCM出演してるアトレビド社の社員と結婚する訳?」
「残念ながらアトレビド社には、せっせとご機嫌伺いに来てくれるイケメンさんがいないからねー。エーヴィヒさんみたいな」
「うるさいわね! エーヴィヒとは単に仕事の付き合いよ!」
「いつもバラの花束を持って来てくれるんだよねー。色はゴールドに近い黄色」
「何でそんな事まで知ってるのよ!」
真っ赤になるエーレ。
「ふふふ、エーレをからかうのはその辺にしておいてあげてください、コルティナ。そう囃し立てられては、ますますエーレがエーヴィヒさんに素直になれなくなってしまいます」
「シェルシェも、止める振りをして何勝手な事言ってるのよ!」
「剣術のスポーツ化に当たっては、いずれアウフヴェルツ社にも技術協力をお願いするかもしれませんし。ここは一つエーレとの仲を取り持って、エーヴィヒさんに恩を売っておくべきです」
「私の人生を自分の野望を達成する手段に使うなあっ!」
「ふふふ、冗談ですよ。ちょっとからかっただけです」
いや、あんたならやりかねない。
言葉にはしなかったものの、シェルシェに向けたエーレの目は、はっきりそう語っていた。