◆331◆
「ヴォルフを見世物にするつもりはありません」
コルティナの冗談めかした提案を、爽やかな笑顔できっぱりと断るシェルシェ。
「試合の合間に剣術の形とかを披露させれば、小さい子がいるママさん達への宣伝にもなるよー。『ウチの子も入門させようかしら』って」
ふわふわした笑顔で食い下がるコルティナ。
「ヴォルフは次期当主として、あくまでも『強く、凛々しく』の路線で売り出す予定です。可愛さを前面に出す様な真似はしません」
「もったいないなー。今が可愛い盛りなのにー」
「ふふふ、里子に出すタイミングを見計らう子猫や子犬じゃないんですから」
「でも、ヴォルフ君はお母さん似だから、きっと美少年になるよー。大会デビューしたら、絶対CM出演のオファーがわんさか来るねー」
「ヴォルフを徒に芸能界に関わらせて、武芸の修練の時間を奪う事はしませんよ」
「ま、シェルシェの気持ちは分からないでもないわ。CM撮影はかなり時間を取られるもの」
ポン菓子を美味しそうに少しずつポリポリ食べるリス、もといちっちゃなエーレが口を挟む。
「本当なら、あなた達も『剣術の修行だけに集中したい』と思っているのではないですか?」
シェルシェが問うと、
「どうかなー。一見無駄に思えるものの中にも、学ぶべきものはあるんじゃないかなー」
ふわふわと、深みのありそうな事を言うコルティナ。
「中々、いい事言うわね」
エーレが褒め、
「たとえばー、ビデオ鑑賞会したりー、美味しいスイーツを食べに行ったりー、エーレの恋の噂で盛り上がったりー」
「ちょっと、最後のは何なのよ!」
すぐに撤回する。
「今一番ホットな話題だよー」
「何もない所に火を点けて騒いでいる様にしか聞こえないんだけど。そんなに恋バナがしたかったら、自分のでやんなさいよ!」
「あー、自分に相手がいるからって、独り身の痛い所を突くのは良くないよー」
「痛くもかゆくもない、って顔にしか見えないわよ! あんたなんか、その気になれば、いくらでもいい縁談が来るでしょうに!」
「いやー、案外、条件に合う人っていなくてー」
「どんなのがいいのよ」
「ちっちゃくて可愛い子」
「犯罪か!」
「エーレが男の子だったらなー」
「絶対、破談にするから」
「仕方ないから、ヴォルフ君が育つのを待つしかないかなー」
「絶対、破談にします」
笑顔で答えたものの、シェルシェの目は笑っていない。
「冗談だよー。でも、ヴォルフ君のお相手の女の子は大変だねー。こんなにきれいで強くて頭が良くておっかないお姉さんがいるんだからー」
「確かにそうね。あまり義理の妹さんになるかもしれない子をいじめちゃダメよ、シェルシェ」
コルティナとエーレがからかう様に言うと、
「ヴォルフにとって大切な人をいじめたりはしませんよ」
将来の事を想像してしまったのか、シェルシェは少し寂しそうに微笑んで、
「しっかり教育するだけです」
何やら不穏な事を言った。