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昨年の全国大会では、小学生の部にパティ、中学生の部にミノン、そして高校生の部にエーレ、コルティナと、人気実力共に備わった選手がバラけ、それぞれの部ごとに大量の観客が押し寄せた結果、エディリア剣術御三家は過去最高の興行収益を得たものの、パティが中学生となった今、
「今年からは、小学生の部の会場を大幅にスケールダウンします」
客を呼べる選手がいなくなった小学生の部は、必然的に規模の縮小を余儀なくされる事となった。
「こうなる事は以前から覚悟していましたし、何とか特定の選手に頼らず、大会を盛り上げようと努力して来たのですが」
マントノン家の屋敷の応接間のソファーに座り、優雅に紅茶を飲みつつ淡々と語るシェルシェ。
「身内しか応援に来なくて客席がガラガラだった昔に比べれば、かなりよくなった方じゃないかしら?」
それについて、同じく淡々と意見を述べるエーレ。
「予想だと採算的にトントンになるかならないかだけどねー。小学生の部は、今までずーっと話題性のある選手が途切れなかったし、大会のスタートでドカンと盛り上がってお祭りムードが高まってたけど、これからは寂しくなるのかなー」
手土産に持参したポン菓子を美味しそうに頬張りながら、他人事の様にふわふわと話すコルティナ。
この日、マントノン家を訪れていたこの二人の友人にとって、レングストン家とララメンテ家を代表して、互いの家の剣術全国大会について情報交換をする事も目的の一つだったのである。
「ま、それはともかく」
「ヴォルフ君、大きくなったねー」
そんな二人も、たまたまその日屋敷に来ていた三歳のヴォルフを前にしてはビジネストークどころではなく、
「ふふふ、せっかくの機会です、二人に遊んでもらいなさい、ヴォルフ」
「はい、シェルシェおねえさま」
この可愛い盛りの小動物を撫でたり、抱っこしたり、餌付けしたり、おもちゃで遊んだりと、至福の時間が過ぎて行く。
普段三人の姉達に鍛えられているヴォルフは、エーレとコルティナの接待役をしっかりと務めた後、
「ふふふ、そろそろ眠くなって来た様ですね。自分の部屋で寝かせましょう」
二人の間に挟まれてうつらうつらしている所を、シェルシェに抱き上げられて退場となった。
「小さい子は可愛いわね。まるで電池が切れたみたいに、すぅーっと寝ちゃうんだから」
ヴォルフを堪能し尽くして満足げな表情のエーレが言う。
「うんうん、小さい子はすぐ寝ちゃうよねー。エーレは眠くない?」
意味ありげにエーレを見るコルティナ。
「言うと思ったわ」
「何だったら、ヴォルフ君と一緒に寝て来れば?」
「シェルシェが許さないわよ。大事な弟とよその女がベッドを共にするなんて」
軽口を言って笑うエーレ。
「大丈夫、小さい子同士だから問題ないよー」
「あー、はいはい」
コルティナのしつこい冗談も、今日のエーレは軽く受け流せてしまう。
小さい子供には、絶大な癒し効果があるのである。
「ヴォルフ君を小学生の部でお披露目したら、きっと年上の女性ファンが押し寄せるねー」
そんな小さい子供で儲ける事を企むふわふわ魔女。