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娘の抗議を聞き流して、ムートは話を続ける。
「マントノン家の長女を見なさい。『天才美少女剣士』という、普通の女の子なら恥ずかしくて逃げ出したくなる様な称号を与えられてなお、余裕の笑顔だ。インタビューも多少脚色が入っているにせよ、その称号に見合った発言をしている」
「シェルシェは、その称号に相応しいだけの力量と容姿を持っています。彼女と剣を交えた人間なら、誰もその称号に異議を申し立てはしないでしょう」
そう言ってから、エーレは床に散乱した新聞の一つを拾い、笑顔のシェルシェの大きな写真が掲載されている面を上にしてテーブルの上に置き、じっと見つめた。
「何、容姿だけについて言うならば、お前とて美少女の称号に相応しいと、私は断言する」
ムートが臆面もなく言ってのけた親バカ丸出しの賛辞に、
「よ、容姿より、剣士としての力量の方が大事です」
エーレは真っ赤になって照れながら言う。
「うむ、見事なツンデレ」
「うるさい!」
今度は怒りで真っ赤になるエーレ。
「つくづく、シェルシェは大した女の子だと思わないかね。世間が見たがっている様に自分を見せ、それでいて期待を裏切らず、マントノン家とレングストン家の二冠を達成だ」
「大した女の子ですとも。私にはそんな器用な真似は出来ません」
「シェルシェの真似をしろ、と言っているのではない。お前はお前のいい所がある」
「ありがとうございます、お父様。で、私のいい所ってどこですか?」
「ツンデ」
「やかましいっ!」
父の言葉を的確に予想していたエーレは、その短い言葉が終わる前に、電光石火のツッコミを入れた。