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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第十章◆◆ 女当主の野望とそれに付き合わされる人々について 
328/635

◆328◆

 いたいけな幼児に残酷挿絵と絶望的状況とでトラウマを植え付けようと企むタチの悪いホラーな絵本だったが、後半に入ってようやく絵本らしい展開に突入する。


「『あなたが生きて、この山を下りる方法が、一つだけあります』、と女神様は言いました」


 警告したり、見殺しにしたり、救ったり、絶望させたり、希望を抱かせたり、色々忙しい女神様。どこか語り手のシェルシェに似ていなくもない。


「『その方法を教えてください』、剣士が藁をもすがる思いでたずねると、女神様は微笑んで、『「無心」で魔物を倒しなさい。そうすれば、あなたは魔物にならずにすみます』、と答えました。


「『「無心」とはいったいどういう事ですか?』、剣士がさらにたずねると、女神様は微笑んだまま、『「勝とう」という欲を捨てる事です。もっと言うならば、欲そのものを捨てる事です』、と謎めいた事を言いました。


「『よいですか。あの魔物は「勝とう」と願うあまり、魔物になってしまったのです。そんな魔物に「勝とう」とするならば、ただただ「勝とう」とする妄念に取り憑かれてしまいます。だから、「勝とう」と思わない事が大事なのです』


「女神様の説明に、剣士はまだ合点がいかない様子で、『「勝とう」と思わずに、あれだけの強敵を倒す事など出来るのでしょうか?』、とたずねましたが、女神様はにっこりと微笑んで、『よく考えてみてください。あなたならできるはずです』、答えを言わずに、すうーっと消えてしまいました。


「その場に残された剣士は、大きな木の根元に寄りかかって座り、女神様の言葉の意味をしばらく考えていましたが、ふと、目の前に一匹の小さな毛虫が糸でぶら下がっている事に気が付きました。『うわっ!』、不意を突かれてびっくりした剣士は、あわててその毛虫を手で払いのけます。


「その時、剣士はハッとして、『これか!』、と言って、すっくと立ち上がり、魔物ともう一度戦うために、その場を後にして、山道を奥へ奥へと進んで行きました。


「やがて前と同じ様に、辺りに霧が立ち込めて空は暗くなり、道の向こうから全身血まみれの鎧に身を包んだサムライが現れました。『オマエヲ、キル、オマエヲ キル……』、と低い声でつぶやき続けながら、ぎらりと光る抜き身の剣を上段に構え、ゆっくりこちらに近付いて来ます。


「剣士は自分の剣を抜き放ち、『あれが「勝つ事」に魅入られてしまった者の末路か』、とつぶやいてから、サムライの方へ勢いよく飛び出します。サムライが振り下ろす剣よりも早く、剣士が横薙ぎに払った剣が相手の胴を斬り裂くと、サムライは獣の様な咆哮と共にその場に倒れました。


「『「勝つ事」が大事なのではない。「無心の境地を目指す事」が大事なのだ』、剣士が倒れたサムライに言い聞かせる様につぶやくと、サムライの体はどんどんボロボロに崩れていき、最後には全部砂になってしまいました。


「剣士は天を仰いで、『女神様、ありがとうございました。この思い上がった愚か者も、女神様のおかげでほんの少しだけ成長出来たようです』、と感謝し、踵を返すとそのまま山を下りて行きました。


「こうして、武者修行の旅をやめて故郷に帰った剣士は、その後も『無心』についてあれこれと考えながら剣の道にはげみ、数年後に自分の剣術道場を開いて、たいそう繁盛したという事です。また、剣士は時々お供え物を持って女神様と出会った山へ上りましたが、もう二度とあの美しい女神様に会う事はありませんでした」


 そこでスプラッターでサイコな絵本は、オカルトでスピリチュアルなオチを付けて終了した。一度脅してから救いを提示して洗脳するのは、カルト宗教の手口に近い。


「これでおしまいです。あなたの心には何が残りましたか、ヴォルフ?」


 映画番組の解説者の様な事を言って、強引に締めくくるシェルシェ。

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