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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第十章◆◆ 女当主の野望とそれに付き合わされる人々について 
327/635

◆327◆

 姉のシェルシェは優しげな笑顔を浮かべたまま、スプラッターホラーな絵本の続きを、幼い弟のヴォルフに読み聞かせる。


「どれだけ時間が経ったのでしょう? サムライに斬られて息絶えたはずの剣士は、自分が山道の真ん中で、あおむけに倒れている事に気がつきました。


「『あれは夢だったのか?』、倒れたまま剣士がつぶやくと、『いいえ夢ではありません。あなたは一度死にましたが、わたしの持つ力であなたの傷を治し、生き返らせたのです』、と、何やら聞きおぼえのある声がします。


「剣士が体を起こすと、その傍らに美しい女の人が立っていました。サムライに出くわす前に、『気をつけなさい』、と警告してくれたあの女の人です。よくよく辺りを見回せば、ちょうどその女の人と出会った場所でもありました。


「剣士は自分の胸の辺りを手で触って確かめ、『確かに服は斬られているのに、肌には傷一つない。あなたはいったい何者です?』、とたずねると、女の人はにっこりと笑って、『わたしはこの山の女神です。山で人が危ない目にあわないようにするのも、役目の一つなのです』、と答えました。


「それを聞いた剣士はあわてて立ち上がり、あらためて片ひざを地面について、うやうやしく頭を垂れ、祈るように両手を組み合わせて、『この思い上がった愚か者の命を救っていただき、感謝の念に堪えません。わたしはこのまま、あなたの警告に従い、来た道を引き返して山を下りようと思います』、と言いました。


「女神様は真顔になって、『残念ですが、それは出来ません。あなたはもうあの魔物と一度戦ってしまいました。だから魔物はあなたの息の根を止めるまで、どこまでもどこまでも追って来る事でしょう』、と剣士に言い渡します。


「『では、わたしはあの魔物と戦って勝たなければ、生きる道はないのですか?』、と剣士が困った様子で尋ねると、女神様は悲しげに首を横に振り、『あの魔物に勝てば、今度はあなたが魔物となり、この山に来た人を殺し続ける業を受け継ぐことになるのです』、と答えました。


「『そもそも、最初の魔物も元は人間でした。誰よりも強くなりたいと願って、この山に入り、人との交わりを断って剣の修練にはげんだ結果、人としての道から外れてしまったのです。その執念があまりにも強すぎて、女神であるわたしにさえ、どうすることもできない魔物となり果ててしまいました』


「『では、わたしは殺されるか魔物になるか、そのどちらかしかないのですね』、剣士は絶望的な顔になって、頭を抱えます」


 斬り殺された次はストーカー被害。


 三歳に満たない幼児に読み聞かせる絵本の内容が、スプラッターホラーに続いてサイコホラーの要素まで追加されたものの、ヴォルフは動じる様子もなく、姉の語る話に聞き入っている。

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