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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第十章◆◆ 女当主の野望とそれに付き合わされる人々について 
325/635

◆325◆

 長女シェルシェと三女パティの都合がつかず、次女ミノン一人でヴォルフの相手をする時は、


「よし、稽古場へ行こう」


 有無を言わさず、この弟を屋敷の敷地内にある稽古場に引っ張って行くのが常だった。


「はい、ミノンおねえさま」


 ヴォルフも特に抵抗する事なく、言われるがまま稽古場へお供する。


 ミノンは横に並んで歩くヴォルフを、散歩の途中で小型犬を抱き上げる飼い主の様に、ひょい、と抱え、そのまま肩車をしてやり、


「どうだ、ヴォルフ。お前が大人になった時、こんな風に世界は見えるんだぞ」


 並外れて背が高く、「巨大怪獣」とまであだ名される程のミノンに肩車してもらっている事を考えれば、「どんだけデカい大人だよ」、とツッコミの一つも入れたくなる所だが、


「はい、おねえさま」


 ヴォルフは決して逆らわない。よく訓練されている。


 稽古場に到着すると、ミノンは更衣室でヴォルフと一緒に稽古着に着替え、軽くウォームアップを済ませてから、


「剣術は足だ」


 と、足運びの稽古に取り掛かる。


 ヴォルフと三メートル程離れて向き合い、ミノンが前進すればヴォルフは後退、後退すれば前進、ミノンから見て右に行けば、ヴォルフから見て左、左に行けば右、という具合に自分の動きを真似させ、さながら延々と続く合わせ鏡のコントの様。


 ヴォルフも慣れたもので、この巨大な姉の床を滑る様な軽やかな動きにしっかりついて来る。


 ひたすらこの練習だけをさせた後、


「よし、次は剣を持って――」

「その辺にしておきなさい、ミノン、ヴォルフ」


 いつの間にか稽古場の入口に立っていたシェルシェが中止命令を下した。


「いや、これからが肝心なんだが」


「小さい子に無理をさせては逆効果ですよ。それにもうヴォルフに入浴させる時間です」


「え、もうそんなに経ったか?」


 改めて稽古場の壁にある時計に目を向け、驚くミノン。


「あなたはまだ稽古を続けていても構いませんが、ヴォルフはもう屋敷に戻りなさい」


「はい、シェルシェおねえさま」


 ヴォルフはミノンに向き直り、


「ありがとうございました、ミノンおねえさま」


 と深々と一礼してから、更衣室に戻り、自分の脱いだ服を持って、稽古着のままシェルシェと一緒に屋敷に戻って行った。よく訓練されている。


 屋敷へ戻る道すがら、


「ヴォルフ、ミノンは稽古に夢中になると回りが見えなくなるタイプです。あなたが小さな子供である事を忘れて、無茶な稽古をやらかしかねません。疲れたなら、『休ませてください』、とちゃんと言うのですよ」


「はい、おねえさま」


「大人になったら、どんなに疲れていても休めない時もありますけどね」


 ヴォルフは返事をせずに、じっとシェルシェを見上げて、


「つかれたら、やすんでください、シェルシェおねえさま」


 と声を掛けた。


 シェルシェは微笑んで、


「ふふふ、そうですね。たとえ大人でも、いえ、大人だからこそ体調管理は大切です」


 弟の頭を優しく撫でてやった。

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