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普段の行いが行いなので、幼い弟のヴォルフと一緒に寝るだけでも姉のシェルシェからカメラでの監視を義務付けられてしまう程のパティだったが、世間一般のイメージはあくまでも「小さい子供に優しい美少女剣士」であり「大道芸人」である。
特に「大道芸人」の方はテレビタレントとして美味しいポジションであり、ただの「美少女剣士」は使い所が難しく画的にも地味過ぎるのに対し、剣以外に様々な武器の扱いに長けているパティはバラエティー番組等で重宝される存在になっていた。
一例を挙げれば、こんな感じである。
司会のお笑い芸人に似せた発泡スチロール製の等身大人形が用意され、それを大きなベニヤ板の前に立たせてから、その頭の上にちょこんとリンゴが乗せられ、
「さあ、これから本日ゲストに来て頂いた『大道芸人』ことパティさんに、約十メートル離れた場所からナイフを投げて、あのリンゴへ当ててもらいます! 自信の程はいかがでしょうか、パティさん?」
人形のモデルである司会がパティにマイクを向ける。
「これだけ距離があると難しいですね。でも、頑張ってみます!」
陽気に答えた後、パティは銀色に光る流線型の刃を持ったスローイングナイフを、傍らに置いてある小テーブルから手に取って構え、一呼吸置いてから、
「ハッ!」
と言う掛け声と共に、素早くそれを人形に向けて投げつけた。
しかし投げられたナイフはリンゴではなく、人形の額に深々と突き刺さり、
「パティさん! そこじゃない!」
その人形のモデルである司会が自分の額を押さえつつオーバーな抗議の声を上げ、会場から笑い声がどっと起こる。
「今のは練習と言う事で」
「何か私に恨みでもあるんですか!」
司会とお約束の掛け合いの後、パティはリラックスした状態でスッと二本目のナイフを投げ、今度は見事にリンゴに命中させる。
「お見事!」
拍手喝采に沸くスタジオ。
だが、さらにパティはナイフをテーブルから取って投げ続け、人形の胸、両腕、両足、股間に次々と突き立てて行った。
「これは追加サービスです」
「いらんわ、こんなサービス!」
もう一度会場から笑いと拍手が沸き、お茶の間の視聴者も大満足。
この様な高度な技術を使ったベタな余興を卒なくこなせるのも、「大道芸人」ことパティの魅力であった。
決してただの変態ではないのである。
だからこそ始末に悪いのかもしれないが。