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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第二章◆◆ 不死身で無敵な殺人鬼となった娘の恐怖について †レングストン家の悪夢†
32/632

◆32◆

「この国のマスコミは腐りきってます」


 あらかた新聞を床に叩き付け終えたエーレは、怒りで喚き散らしたい衝動をやっとの事で抑えつつ、小学生女子らしからぬ不穏な言葉を口にした。


「何だ、私はてっきり、お前が今時の流行に合わせて、レングストン家の宣伝の為に、ベタなツンデレを演出してくれていたのかと思っていたよ」


 そんな愛娘の狂態を前にして、いささかも動じる様子もなく、父ムートは冷静に言う。


「全部捏造記事です! 私はこんな事言ってませんし、こんな口調で喋ったりしません!」


「なかなか可愛いと思うんだが」


「可愛い可愛くない以前に、これでは私がただのバカにしか見えません。私だけでなく、ひいては武芸の名門たるレングストン家の沽券に関わる問題です」


「そこまで目くじらを立てる必要もあるまい。プロのスポーツマンとて、宣伝の為にあえてバカを演じて見せるのはよくある事だ」


「ではお父様は私に、今後もレングストン家の為に道化師になれ、と仰るのですか。ベタなツンデレを演じる、底の浅い道化師に」


 エーレは怒りつつも、少し悲しげに問う。


「いや、お前にそんなあざとい真似をさせるつもりはない」


 ムートの返答に、エーレがほっとしたのも束の間、


「演じるまでもなく、お前は本物のツンデレなのだから」


「誰が本物のツンデレだっ!」


「お前にいい言葉を教えよう、『天然モノは自覚がない』」


「それはむしろ、お父様の天然ボケの事でしょう」


「なるほど、上手い事を言う」


「感心するなっ!」


「そう、カッカするな。少しばかり世間の流行りに乗ったからといって、武芸者としての誇りにさほど傷は付かぬ。お前はまだ子供なのだ。あまり自覚はないかも知れないが。もう少し大人になってもいいのではないか」


「と、言いますと?」


「子供っぽく見られる事を嫌がっている内は、まだまだ子供という事だ。人が自分をどう見ようとも、自分をしっかり持って平然としていられるのが、大人の態度というものだ。マスコミや世間が、お前にツンデレのイメージを与えようとするならば、それはそれで放っておくがいい。当事者としては不愉快かもしれないが、数々の新聞記事に目を通した限りでは、親しみこそあれ、ネガティブな印象は感じられない」


 そこで言葉を切って、問い掛ける様に娘を見つめる父ムート。


 エーレは自制心を取り戻し、しばらく黙って考えた後、ため息をつき、


「水面は月を映していても、そこに本物の月がある訳ではない。その月は幻にして、水こそが実体。水は静かなればこそ、水面に月を正しく映す。そんな所でしょうか」


「お前なりの『水月』の解釈か。小学生にしては上出来だ」


 ムートは軽く頷いて、


「そんな訳で、これからもツンデレを頑張ってくれ」


「お断りしますっ!」


 そこだけは頑として譲らないエーレだった。

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