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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第十章◆◆ 女当主の野望とそれに付き合わされる人々について 
319/635

◆319◆

 翌日、屋敷の居間に、前々当主クペ、前当主スピエレ、現当主シェルシェ、次期当主ヴォルフの四人という早々たる面子が集い、


「マントノン家の現状と今後の課題について」


 現当主シェルシェによる報告会が開かれた。


 報告会とは言うものの、実際はそう堅苦しいものではなく、もうすぐ三歳になるヴォルフが、祖父クペと父スピエレと姉シェルシェの三地点を周回して場を和ませつつ、寛いだ雰囲気の中でお喋りを楽しむもので、その様子を傍から見れば、一般家庭の団欒と何ら変わりがない。


「ご存じの通り、妹達と他家の令嬢達の活躍により、エディリア剣術界はショービジネス的な成功を収めています。ですが、この一過性の『天才美少女剣士』ブームに気を良くして何も手を打たなければ、いずれブームが去った時、経営破綻に追い込まれるのは明らかです」


 重い話を、まるで世間話の様にさらりと言ってのけるシェルシェ。


「結局武芸道場の経営は、『いかに道場生の数を増やすか、そしていかに長く続けてもらうか』に尽きるな。お? ヴォルフ、もう解けたのか、じゃ、次はこれだ」


 クペはシェルシェと話をしつつ、喜々として、目の前のテーブルの上に置いてあるチェス盤の上の駒を並び変えた。自分の所に来ていたヴォルフに、簡単な詰め手の問題を出して遊んでやっていたのである。


「はい、おじいさま」


 テーブルの端に両手を掛けて、じっとチェス盤を見据えるヴォルフ。


「はは、いずれ、この子に負かされる時が来ますよ、父さん」


 マントノン家の経営状況より、我が子の成長が嬉しくて仕方がないスピエレ。人情の人ではあるが、経営に向いていないのは今も昔も変わらない。


「ヴォルフ」


 シェルシェが優しく呼び掛けると、それまでチェスの問題に夢中になっていたヴォルフは、さっと顔を上げて、


「はい、おねえさま」


 と返事をして次の言葉を待った。よく訓練されている。


「私達が話している事は、まだあなたには難し過ぎてよく分からないでしょうね。ですが、基本的には今あなたが解こうとしているチェスの問題と同じです。目標を達成する為に、どんな手を何手打てばいいのかを、皆で一生懸命考えているのですから。それだけは覚えておきなさい」


「はい、おぼえておきます、おねえさま」


 律儀にオウム返しで答えるヴォルフが可愛らしく、おじいちゃまとお父さんが相好を崩して笑う。


「では、チェスに戻りなさい、ヴォルフ。いつかはあなたにも、私達の問題を一緒に解いてもらいますよ」


「はい、おねえさま」


 ヴォルフはすぐに盤面に目を落した。よく訓練されている。


 もしくは今、正に姉に訓練されている真っ最中。

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