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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第十章◆◆ 女当主の野望とそれに付き合わされる人々について 
317/635

◆317◆

 長女は当主、次女と三女は人気タレントと多忙を極め、家でゆっくり話をする時間も少なくなってしまったマントノン家の三姉妹が、ある晩屋敷の敷地内にある稽古場で一堂に会する機会を得た。


 共に心行くまで稽古に励んだ後、防具を外して稽古着のまま床に車座になって座り、久々の姉妹水入らずで談笑したのだが、その内容があまり十代の少女らしくない。


「あなた達とエーレ、コルティナの人気のおかげで、今や順風満帆に見えるエディリア剣術界ですが、『美少女剣士』路線の人気取りも後数年で終わりです。皆、いつまでも少女のままではいられませんからね」


 高校二年生の長女シェルシェがシビアな事を言う。


「剣術の腕は、これからどんどん年齢と共に上がって行くんだがなあ。やっぱり、見て楽しむ側としては若い女の子の方がいいのかねえ」


 中学三年生の次女ミノンが少し残念そうに言う。


「『天才美少女剣士』という肩書は何と言っても魅力的ですからね。成人した『美女剣士』も中々だと思いますが」


 中学一年生の三女パティが大人びた口調で言う。


 もしこの場に一回り年配の人間がいたなら、「お前らまだ子供だろ! 若いだろ!」、と涙目で激しくツッコミを入れていた事であろう。


 しかしこのマントノン家の三姉妹、見た目の華やかさとは裏腹に、各自が背負っている家名と責務があまりにも大きい為、会話の内容が同年代の子に比べて自然とスレてしまうのも無理はない。


「下の世代から、あなた達の様な剣才とスター性を併せ持った逸材が出てくれれば一番良いのですが、そんな希望的観測を当てにして、何もしないままでいる訳にも行きません。出来るだけ早く、公正かつ明快なルールを持ったスポーツとしての剣術を確立し、流派の枠を超えて世に広めて行きたいものです」


 いつもの壮大な野望を口にするシェルシェ。


「公正かつ明快なルールっていうのは、主に判定機器の導入の事だな?」


 新しいオモチャに興味を示す子供の様に、身を乗り出すミノン。


「実際に国外のとあるメジャーな流派の剣術で、電気式判定機器導入後に競技人口が急激に増加したという話もありますね」


 可愛い子に興奮して変態行為を働いている時以外は、割と冷静なパティ。


「一方、競技人口で圧倒的な数を誇るサムライの本場の剣術では、精神性を重視しているので、その手の機械を導入する事に根強い抵抗がある様です」

「正直、本場のサムライ同士の試合を見てても、『何で今のが一本じゃないんだ?』って首をひねる事がよくあるよな」

「エディリアだと、レングストン家が一本の判定に厳しいですね。サムライの本場程ではありませんが」


 シェルシェ、ミノン、パティは三人が三人とも優れた剣士だけあって、他国の剣術にも並々ならぬ関心を持っている。


「そのレングストン家がハイテクの代表格アウフヴェルツ家とタッグを組んだんだから、面白いもんだ」


 ミノンが笑う。


「ふふふ、いざとなったら、レングストン家でなくアウフヴェルツ家を相談相手にした方がいいかもしれませんね。判定機器の開発には、最新の技術を導入しなくてはならないでしょうから」


 シェルシェもつられて笑う。


「その際、エーレ一人を取り込んで置けば、後で何とでもなりますね。聞いた話では、古参のおじい様方の可愛いお孫さん達は、皆エーレが大好きだそうです」


 エーレの名を口にして、パティも怪しく笑う。やや危険。


「ふふふ、将を射んとすれば馬、老人を射んとすれば孫ですか。言うまでもありませんが、エーレの心証を悪くする様な真似はくれぐれも控えるのですよ、パティ?」


 そんな変態に、笑顔で釘を刺すシェルシェ。目が笑ってない。


「はいっ、お姉さま」


 姉の氷の様な視線を受けて慌てて居住まいを正し、返答するパティ。


 悲しい事にその覚悟は、エーレ本人を前にすると数秒と持たないのだが。

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