◆315◆
「よい子にしてたかなー、エーレ?」
自分が出演しているCMのメーカーのお菓子を詰め込んだ大きな袋を背負って、レングストン家の屋敷にふわふわと遊びにやって来たコルティナが、玄関先で出迎えたエーレの頭を撫でようとする。
「魔女の次は、子供達にプレゼントを配る聖者のコスプレ?」
その手を無下に払い、冷静な口調で問い返すエーレ。
「お菓子をあげるから、イタズラさせろー!」
「色々間違ってるから、それ」
「うふふ、今日はアトレビド社から頂いたお菓子を一杯持って来たからねー。濃い緑茶を淹れてくれると嬉しいなー」
「とにかく中へ入って。今のあなたはどう見ても不審者にしか思えないから」
応接間へ通されたコルティナは、袋の中から次々とお菓子を取り出してテーブルに並べ、
「『サムライの国の伝統菓子』シリーズから、まずは、このきなこ棒がお勧めー」
「美味しそうね。でも見ただけで、口の中がパッサパサになりそう」
「ところで聞いたよー。エーヴィヒさん、とうとうレングストン家の一員になったんだってー?」
「ぶふぉっ!?」
不意打ちをくらって、口に含んだきなこ棒にたっぷり付着しているきなこでむせてしまうエーレ。口元を押さえつつ、急いで湯呑を手に取って、緑茶を口に含み、
「変な言い方しないで! あの変態をレングストン家の一員に加える予定は未来永劫ないから。ウチの道場に入門しただけよ」
イラッとした口調で、コルティナに抗議を試みる。
「『一本取ったら結婚してあげる』って約束したんでしょー?」
「誰から聞いたか知らないけれど、そんな約束をした覚えはないし、たとえ百本取っても結婚しないから」
「えー、そこは話を盛り上げる為に結婚しようよー」
「話を盛り上げるって何。人の人生で遊ばないで」
「ロマンチックじゃない。美少女剣士に恋して、自らも剣の道に入る美青年ってー」
「そんな不純な動機で入門されても困るわ」
「で、どうなのー。エーヴィヒさんの剣才の程はー?」
「普通にスジは良さそうよ。忙しい合間を縫って練習に励んでるから、上達するまでに時間は掛かるでしょうけど」
「そしていつの日か、エーレを倒してプロポーズするんだねー」
「その設定はもういいから」
「ここはエーレの親友として、一肌脱いであげなきゃ」
「よく分からないけどやめて。不吉な予感しかしないし」
「エーヴィヒさんに、ララメンテ家の道場へ短期入門してもらうのー。お互い、道場の掛け持ちは認めてるよねー?」
「そういう人もいるけど、初心者の内はあまりお勧めしないわ」
「そこで私がエーヴィヒさんに、『エーレ攻略法』を直々にコーチするんだよー」
「へえ、面白いじゃない。剣を取ったばかりの初心者が、あなたのコーチでどこまで私と戦えるか実験したいっていうの?」
不敵な笑みを浮かべて、これに応じるエーレ。
「うふふ、まずはエーレが喜びそうなプレゼントとお勧めのデートコースを伝授します」
「は?」
「それから、エーレの撫でてあげると喜ぶ部位を事細かく」
「何をコーチする気だぁっ!」
つい声を荒げて身を乗り出すエーレ。
「エーレ攻略法」
「剣術の話じゃないんかいっ!」
「親友には幸せになって欲しいからー」
「おちょくって遊んでる様にしか聞こえんわ!」
「ちなみにお勧めのデートコースは動物園でー、お勧めのプレゼントはそこの売店で売ってる可愛い動物ぬいぐるみー」
「うっ……!」
ストライクゾーンをコルティナに見抜かれ、何とも言えない気持ちになって声を詰まらせるエーレ。
可愛い動物大好き。