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「またコルティナさんにしてやられました。ああまで大胆な事をやられてしまった後では、せっかくのエーレさんの水着姿のインパクトも少し霞んでしまいます。残念です」
コルティナが出演したアトレビドのエロCMの放映後、早速セクハラまがいの感想を電話で伝えて来たエーヴィヒに、
「いえ、別に残念とも思いません。向こうが先に恥ずかしい事をしてくれたおかげで、こちらの恥ずかしさが霞むのなら、むしろ感謝したい位なんですが」
うんざりした口調で答えるエーレ。
「CMに限らず広告は、その表現の細部に至るまで吟味し、『受け手にどの様な効果を与えるか』をあらゆる角度から徹底的に計算する事が大切なのです。今撮影中のCMについても、主軸に据えているのは『エーレさんの可愛らしさ』ですが、『水着姿が醸し出すささやかな色気』も同時に狙っていたもので」
「ささやかな色気」って、それはそれで失礼だろ。
一瞬そう思ってしまった自分を恥じつつ、
「CM制作も大変ですね」
エーレは冷静さを装い、「私はささいな事でキレるお子様じゃないのよ」、とアピール。
「あのCMを見た制作チームは、現在緊急会議を召集しています。議題は『裸ローブに負けない為には、どんな演出が必要か』というものです」
「大の大人が夜中に集まって何の話をしてるんですか」
ちょっと冷静さを失いそうなエーレ。エーヴィヒは大真面目に、
「これまでに挙がった案としては、『水着のお尻部分をクイッと指で直す仕草』、『水着を少しズラして日焼けと白い肌との境目を強調』、『波に流されてしまう水着から手ブラへ』、『浜辺でリンボーダンス』、『ポロリもあるよ』等ですが」
「すみません、その案を出した変態を全員、セクハラで告訴していいですか?」
「安心してください、エーレさんをお色気担当扱いするこれらのふざけた案は、全て私が強硬に反対しましたから」
「そうですか、安心しました」
ちょっとエーヴィヒを見直すエーレ。
「やはりエーレさんの魅力を引き出すには、『大人のお色気』より『ちっちゃい子のかわいらしさ』を主軸に据えるべきだと思うんです。私が代案として強く推したのは、『海から上がった後、お兄ちゃんにバスタオルで髪をわしゃわしゃと拭かれる』というものですが」
エーヴィヒのマニアックなこだわりに少し怖気を感じつつ、
「私は高校生なんですが、一応」
「大丈夫、十分絵になります」
「ならない方が嬉しいです」
「エーレさんの髪をわしゃわしゃと拭く役は、ぜひ私にお任せください」
「断る!」
ついにエーレがキレた。