◆307◆
恐れ敬われるマントノン家のシェルシェ、ひたすら愛でられるレングストン家のエーレに対し、ララメンテ家のふわふわお嬢様ことコルティナは、一言で言えば「やりたい放題」であった。
例えば、呼ばれてもいないのに道場の幼年部に、CMでお馴染みの魔女コスプレ姿で颯爽と現れ、
「みんな、ふわふわになーれー」
と言って、子供達を大いに喜ばせて稽古の妨害を行い、
「ご迷惑をお掛けしました」
と仲間達に両脇を抱えられて連行されるも、
「小さい子には夢を与えなくちゃねー」
反省するどころか開き直り、
「時と場合と種類を選べ」
とツッコミを入れられるなど、その奇行の枚挙には暇がない。
大会が一段落し、菓子メーカーアトレビドからの新CMのオファーを、
「小さい子に夢を与えに行って来るねー」
とノリノリで受け、企画会議から戻って来ると、
「私の案が通ったよー」
喜々として報告し、仲間達を不安にさせるコルティナ。
「変な案じゃないでしょうね。ウチの道場の名誉を失墜させる様な」
「うふふ、まさかそんな事はしないよー。子供達が喜びそうなファンタジーな映像だから期待しててねー」
「また、ほのぼの魔女モノ?」
「そんな所かなー」
そして迎えたCM放映日。
それまでのベタな低予算っぽいコントとは打って変わり、真っ暗闇の中、黒いトンガリ帽子と黒ローブ姿のコルティナがスローモーションでただ踊るだけという、イメージビデオの様なCMを見た道場の仲間達は、思わず絶句する事になる。
踊っている事自体に特に問題はない。が、当のコルティナは帽子とローブだけしか身に着けておらず、体を動かす度にローブがはだけ、肌がかなり際どい所まで露わになるのだ。チラチラと。
もちろん大事な場所はしっかり隠れているが、逆に想像力を刺激する狙いである事は間違いない。
「みぃーんな、ふわふわに、な、あ、れ」
と最後に気だるい口調で決め台詞を言った後、棒状の麩菓子を口にする場面のアップはある意味反則。
「アレのどこが、子供が喜ぶファンタジーだっ! 喜ぶのはむしろオッサンだろ!」
「親と一緒に見てたら気まずくなったわ!」
「もう魔女じゃなくて痴女だよ!」
早速、仲間達からコルティナに苦情が寄せられる。
「うふふ、大丈夫だよー。実は下にちゃーんと水着を着て撮影してるからー」
「そういう問題じゃないっ!」
ツッコミを入れつつ頭を抱える仲間達。
が、CM自体は子供達にバカ受けで、今まで同様、菓子の売上に大いに貢献し、特にララメンテ家の名誉が失墜する事もなかったという。
ただ、多くの子供達に「裸ローブ」という特殊な性癖を植え付けたのではないか、という意見も一部の有識者から上がった様である。
小さい子には、与えていい夢と悪い夢がある事を忘れてはいけない。