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興行的な大成功を収めてもそれは一時の事であり、大組織を存続させる為にはしっかりとした土台を構築した上で、時勢に応じた柔軟な運営をして行く事が大切である、とマントノン家当主シェルシェは気を引き締めており、
「当初の支部道場統廃合計画は大方完了していますが、それで盤石という訳ではありません」
一連の大会が終了すると、妹のミノン、パティを連れて、エディリア全土に散らばる支部道場の視察回りを積極的に行った。
今やCMですっかりお馴染みの「マントノン家の三姉妹」は行く先々で大歓迎され、ただの視察だけでなく三姉妹自ら剣を取って稽古をつける等の旺盛なサービス精神も発揮し、その支部道場の宣伝に大いに貢献する。
「やっぱり強いわ。まるっきり歯が立たない」
「生で見ると、本当に綺麗。CMに起用されるのも納得」
「こういう人達が実際にいるんだから、不思議よねえ」
支部長や道場生からの評判も上々であり、良好なムードで進む視察中、シェルシェは各支部の情報を貪欲に収集し、今後の経営にフィードバックさせようと余念がない。
こうした地道な活動を積み重ねて実績を上げる事で、マントノン家におけるシェルシェの存在感はいやが上にも増強されて行き、気が付けば、もはや「お飾り当主」でなく「絶対君主」としての地位を確立していた。
他の親族や役員達がこの事態に焦りを感じても、時既に遅く、
「まだ十六歳の小娘に頭が上がらないとは情けない」
「しかし、『マントノン家の三姉妹』がいなければ、経営が成り立たないのも事実」
「ああ、昔は良かったなあ。一体どうしてこうなった?」
剣の腕も、経営者としてのビジョンも、道場生からの人気もない上、面倒事を人に押し付けて安逸と利益を貪り続けた報いを受けているという事実から目を逸らして嘆く日々。
「ふふふ、私は親族や役員の皆さんを蔑ろにしている訳ではありませんよ? 何か有効な提案があれば、遠慮なく申し出て欲しいものです。どの様な案も偏見を持つ事なく真摯に検討させて頂きますから」
マントノン家の書斎で、祖父クペにそう言って笑ってみせるシェルシェ。
「嵐の様なダメ出しを食らって、よしんばその案が採用されるにしても、赤ペンで修正されまくって原型をとどめない形になっているだろうがな」
クペがつられて苦笑する。
「当主だった頃のお父様が散々やられていた事です。ですからもちろん皆さんも、その位の覚悟はお持ちでしょう」
「ある意味、因果応報か」
もしくは倍返し。