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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第九章◆◆ 美少女剣士達のメディア戦略について

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302/638

◆302◆

 タイアップ効果によって興行収益記録を大幅に更新したその年の一連の剣術全国大会が今度こそ本当に全て終了し、他の二家同様ララメンテ家の大会のダイジェスト版もテレビで放映され、


「あの会場にいる観客の千分の一でいいから、ウチの道場に入門してくれないかな」


 それを見ていた格闘系の道場主達が、剣術そのものとは何も関係ない事を呟いてため息をついていた。


 例の「格闘界でも剣術界に続いて全国大会を開催しよう」をスローガンにして会議を繰り返す有志達である。


「俺達も武芸ブーム全盛時に全国大会をやっておくべきだったなあ」

「あの頃だったら、一万人位の観客は軽く動員出来たかも」

「試合の様子もテレビ中継されたりしてな。放映権だけでも結構儲かったかもしれん」


 当初の熱気もどこへやら、厳しい現実から目を背け、過去の栄光にすがる様に「昔はよかった」と唱え続けるダメ会議になりつつあるのだが、ダメ会議はダメ会議で結構楽しいので誰も注意しなくなっている。


 持ち回りで順番に各道場に集まり、持ち寄った茶菓子をパクつきながら、点けっぱなしのテレビに目を向けつつ、あーだこーだと勝手気ままな事を言い合って、ただダラダラと時間だけが過ぎて行く。


 なぜ武芸ブームが終焉を迎えたのか分からなくもない光景ではある。


「でも、あの噂は本当なのかねえ。マントノン家が格闘の全国大会開催の資金援助をしてくれるって話は」

「一時盛り上がったが、その後続報がないな」

「考えてみりゃ、話が美味過ぎる。何かの間違いだったんじゃねえのか」


 一同、後向きな見解で一致した所へ、


「あんた、電話だよ!」


 今日の会議が行われている零細道場の道場主の妻が現れ、興奮した声で夫を呼ぶ。


「おう、誰からだ?」


 のっそり立ち上がって問う道場主に、


「シェルシェ・マントノンだよ! 早く出て! 噂は本当だったんだね!」


 と言うが早いか、その襟首をむんずと掴んでものすごい力で引っ立てて行く。下手をすると道場主より強いかもしれない。


 残されたダメ会議のメンバー達は互いに顔を見合わせ、


「マジか」

「噂をすれば何とやら」

「ヤバい、何だか心臓が痛くなってきた」

 

 不幸に慣れきった人々は、しばしば降って湧いた幸運にパニックを起こすものである。

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