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パティを石化させた後、今度は、胸元を大きく切り裂かれて露出度がやたら高くなってしまったピンクのフリフリドレスをまだ着替えず、それでも凛とした態度で大真面目に正座している弟に向かい、
「ヴォルフ、いくらパティの頼みとは言え、この様な倒錯した行為に付き合う事を、恥ずかしいとは思わなかったのですか?」
シェルシェが問い質す。
「いえ、これも武芸修行の一つの形です。恥ずかしいとは思いません」
普段シェルシェには絶対服従のはずのヴォルフ少年が、パティをかばう様に反論する。
もっとも、この「人をかばう行為」自体、シェルシェの教育によるものであり、ここで手塩に掛けた弟が自己保身に走る様なら、逆にシェルシェは落胆した事であろう。
「女の子の服を着せられる事も?」
「武芸の実技に必要であれば、どんな服を着せられようと恥ずべきではありません」
「実技の前に、邪な欲望を満たすだけの写真を撮られた事も?」
「技を受ける前と受けた後を、比較検証する資料です」
シェルシェに対し、男らしく堂々と反論し続けるヴォルフ。もっとも、ピンクのフリフリドレスが全ての男らしさを台無しにしていたのだが。
シェルシェは机の上に置いてあったデジカメを取り上げ、パティが撮りまくったヴォルフの女装写真の数々を確認し、
「まるで本物の美少女にしか見えませんね。この写真を公開すれば、その手のマニア達から熱烈な人気を博して、歪んだ動機で入門を希望する者の数の増加が見込まれるでしょう。道場経営者としては、その様な戦略もありかもしれませんが」
女豹のポーズを取るヴォルフの画像が写し出された液晶画面を、その被写体本人に向けて見せながら、
「私はマントノン家の次期当主であるあなたを、この様な色物として世間に売り込むつもりはありません。あなたの基本コンセプトは、あくまでも正統派の、『強く、凛々しく』です。その整った面立ちは、一握りのマニアの為ではなく、もっと広く一般層から支持を得る為にのみ使いなさい」
びしっ、と言い渡す姿は、武芸の名門の当主と言うより、芸能事務所の社長の方が近かった。
「はい、以後気を付けます」
このタイミングで掌を返し、素直にシェルシェの言う事に従うヴォルフ。やはり、よく訓練されている。
「この画像は全て消去しましょう」
言うが早いか、シェルシェは画像全消去の操作を終える。
石化が解けたパティは、絹を切り裂く様な悲鳴を上げた。
「ああっ! 私の宝物が! まだ保存してない写真が、他にも一杯撮ってあったのに!」
ダメだこの人。




