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「特に防衛戦において、コルティナに率いられたララメンテ家の選手達の強さは年々磨きがかかっている様な気がします」
マントノン家の屋敷の書斎で、当主シェルシェが前々当主にして祖父のクペに報告する。
「確かにパティ、ミノン、エーレと、外部からの強豪選手の侵攻を全て食い止めたコルティナの手腕は見事の一言に尽きる」
椅子に深く背をもたれ、腕を組んで頷くクペ。
「一方で、今回レングストン家の選手達は本来の実力を出し切れず、不調に終わってしまった感があります。これをレングストン家独自のデータ分析が裏目に出てしまった結果と見るならば」
シェルシェはそこで言葉を切って、しばし間をおいた後、
「私達にとっても大いに学ぶべき点があるのではないでしょうか」
と言って、自嘲気味に微笑んだ。
「付け焼刃のデータ分析に期待し過ぎるのは危険、と言いたいのだな」
「はい。一応、対策チームを編成して研究を進めてはいますが、導入に当たっては慎重に考慮する必要がある、と痛感しました」
「難しい所だな。確かに敵をよく知る事自体は理に適っている。だが極端な話、よく知らない敵に対して全く歯が立たないのであれば意味がない」
「もちろん、敵をよく知って対策を練る事もよい修練となりますから、全く無意味ではありません。ですが、不測の事態にも対応出来るだけの実力を養う事をおろそかにしてはいけないと思うのです」
「ピンポイントでヤマを張るだけでは不十分という事か」
「憚りながら、我がマントノン家は御三家の中で一番地力があると今でも自負しています。そのマントノン家本来の優位を捨ててまで、安易な流行に走ってはならないと考える次第です」
「古い考えかもしれんが、私もお前と同意見だよ、シェルシェ。一から十までデータ化され、効率だけを重視した剣術が主流になってしまったらと思うと、妙に悲しいものがある」
クペは少し寂しげに微笑んだ後、
「ところで、パティはどうした? また何か問題を起こしたのではあるまいな?」
ずっと心の隅に引っ掛かっていた事について尋ねた。
「ふふふ、大丈夫です。大会終了後にエーレ達に会いに行った時も大人しくさせておきました」
「流石にお前の目の前では狼藉は働けないと見える」
「いえ、遠隔操作で電気ショックを与える特注チョーカーをパティの首に装着して脅していたのです」
「犬の無駄吠え防止首輪か」
「二回程、電気ショックを与えざるを得ない場面もありましたが」
「もう少し平和的な解決方法はなかったのか」
パティもパティだがシェルシェもシェルシェだ、と嘆きたくなるおじいちゃまだった。




