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「この前の大会で、ウチは手の内を晒し過ぎた様ね」
先日の大会での好調が嘘の様に、ララメンテ家の選手達に身内がバタバタと倒されている状況について、エーレがそんな感想をティーフにぽつりと漏らす。
「なまじコルティナに食い下がっていたのが仇となったのか。戦術で勝って戦略で負けたんだな」
善戦空しく中盤でコルティナと当たって敗退してしまったティーフがため息をついた。
「まだ負けてないわよ。でもララメンテ家らしいと言えばらしい戦略だわ」
「自家の大会を守る為に、その前の二大会をデータ取得の場と割り切る方針は健在か」
「そこまで割り切っていたかどうかはともかく、結果的にそうなっているのが現状ね。分析魔の面目躍如って所かしら」
そう言ってから、エーレは目を観客席の方に転じた。遠くてよく分からないが、視線の先にはエーレを録画し続けるエーヴィヒがいるはずである。
「まるでエーヴィヒに、『アウフヴェルツよ、これが真のデータ分析だ』、と見せ付けているかの様ね」
「それは、エーレとしても捨てておけないな」
「そ、そんなんじゃないわよ! 別にエーヴィヒの事なんかどうでもいいんだから!」
「いや、エーヴィヒさん本人がどうこうという訳じゃなく、単にデータ分析についての話なんだが」
ティーフにそう言われ、一瞬、「しまった!」という表情になり顔を赤くするエーレ。だがもう遅い。
周りにいたレングストン家の仲間達が一斉にエーレの方を向いて、
「ツンデレだ!」
「ツンデレよ!」
「ツンデレね!」
と、言葉にこそしないがニヤニヤした表情で雄弁に語りかけて来る。
いたたまれなくなったエーレは、
「つ、次の試合行ってくるわね」
防護マスクを被って赤くなった顔を隠し、そそくさと立ち上がった。
その試合は準決勝戦だったのだが、エーレは対戦相手となったララメンテ家の選手を、試合開始から十秒足らずで立て続けに二本取って瞬殺し、
「愛の力ね」
などと仲間達から無責任に妄想される一方で、
「照れ隠しの八つ当たりかな」
ティーフは八つ当たりされた対戦相手に少しだけ同情していた。




