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レングストン家の応接間の大画面液晶テレビに、剣を上段に構えてのし歩く「巨大怪獣」ミノンの最新映像が映し出され、それをソファーから身を乗り出したちっちゃなエーレが食い入る様に見つめる隣で、リモコン片手にアウフヴェルツの三男エーヴィヒが、
「現在、アウフヴェルツでCGを使った詳細な解析映像を作成中ですが、とり急ぎこの生映像をエーレさんにお渡ししておきます。素人目にざっと見た限りでは、ミノンさんの動きに前回と異なるリズム成分が含まれていて、序盤の優勢はそれに因る所が大きかったのではないかと思いました」
と解説する。
「その通りです。わずかに『間』を狂わせるだけでも、技は無限に変化しますから」
普段エーヴィヒに懐かないエーレも、こと剣術の話題となると、つい警戒心を解いてしまう様子である。
「前の二大会におけるミノンさんの動きを3DCGで再現して、その隣にこの映像を並べればそれがよりハッキリするでしょう。もっとも当面のエーレさんの最大の敵はミノンさんではなく」
そこでエーヴィヒがリモコンを操作して映像を切り替えると、テレビ画面にはどこかで見た事のあるふわふわお嬢様が剣を中段に構えた状態の3DCGが映し出された。
「ララメンテ家のコルティナさんです。前の二大会の動きを3DCGで再現してみました」
やがて画面の中の3DCGコルティナは剣をふわふわと振るい始め、それを見たエーレが、
「よく出来ていますね。防護マスクを着けていないのがちょっと気になりますが」
素直に感心する。
「パソコン上では防具の着け外しが可能になっています。とりあえず、このサンプル映像では識別し易い様に顔を出していますが」
「顔が見えなくても、動きだけでコルティナだと分かります。大したものです」
「通常の防具以外にも衣服の着せ替えが出来る様になっています。何でしたらドレス姿でも」
「要らんわ、そんな機能!」
つい声を荒げてツッコミを入れてしまってから、ハッとして口元を押さえ、
「失礼しました。ですが、あまり剣術を茶化す様な機能は要りませんから」
少し顔を赤くしながら取り繕うエーレ。だがもう遅い。
エーヴィヒはにっこりと笑いながら、
「冗談です。ですが、着せ替え機能自体は防具の開発等に役立つと思われますので、どうかお許しください」
「そういう用途でしたら、問題ありません」
無理矢理澄まし顔に戻ろうとするエーレを愛おしそうに眺め、エーレを内心イラッとさせる。
やがてテレビ画面にはもう一体の3DCGが現れたが、その小柄な体格、ツインテールの金髪、何より両手で構えた二刀流からして、
「……これは私ですか?」
「ええ、総力を挙げて頑張ったのですが、やはり可愛さは本物に敵いません」
エーヴィヒの答えを待つまでもなく、そのモデルはエーレ以外の何者でもなかった。
壁に掛けてある剣で今すぐこのエーヴィヒの素っ首を刎ねてやりたい、という衝動をかろうじて抑えつつ、エーレは、
「あまり冗談が過ぎると、こちらも流石に不快に」
「まあ、御覧下さい。お二人の3DCGを使って、先日のレングストン家の大会の準決勝戦を忠実に再現してみました」
一時は怒り心頭に発したものの、いざ3DCG同士の試合が始まると、その再現度の高さに夢中になって見入ってしまう。ちっちゃい子は切り替えが早い。
そんなエーレを微笑ましげに眺めつつ、
「パソコン上では視点を自由に変える事も出来ます。どうぞ、今後の試合に役立ててください」
徐々に徐々に、このちっちゃいエーレの扱いに慣れて来たエーヴィヒだった。




