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魔女のコスプレ、と言っても一番目立つトンガリ帽子は投げてしまったので、黒ローブのフードを目深に被り、夜の工事現場で使われる様な赤く光る誘導灯を手にしたコルティナが、そのまま会場の外に出ようとするのを、
「あんたはどこぞのSF映画の暗黒面に堕ちた騎士か」
と周囲の仲間達がツッコミを入れて阻止。仮装を解かせてから皆で外に出て、今日の大会を戦い抜いたララメンテ家の選手達と合流すると、身内によるいつもの授与式が始まった。
「大会優勝分と『巨大怪獣』ミノンを倒した分、家族皆で楽しんで来てねー」
今日の最高殊勲選手アグハ・イエロに、コルティナから「高級ホテルの極上スイーツ食べ放題ご招待券」が手渡され、それを見守るララメンテ家の仲間達から温かい拍手が起こる。
「ありがとうございます。優勝出来たのはコルティナさんのご指導のおかげです。ところで、もうこれ取っていいですか?」
そう言って、アグハは授与式の間ずっと被らされていた黒いトンガリ帽子を指差した。もちろん、コルティナが観客席から投げ入れた例の帽子である。
「せっかくだから、優勝祝賀会会場に行くまで被っててー」
ふわふわとした笑みを浮かべながらその申し出を断るコルティナ。何が「せっかく」なのかは不明。
「いや、恥ずかしかったらもう取っちゃっていいよ、アグハ」
「いくら貸し切りバスで祝賀会会場まで行くにせよ、ずっとそれだとちょっと恥ずかしいかも」
「剣術以外でコルティナの言う事をまともに聞いてたら、アホになるからね」
ある意味罰ゲーム状態のアグハに、仲間達が近寄ってフォローを入れたが、
「いえ、そろそろ帽子をコルティナさんにお返ししようと思って」
コルティナがディスられそうになったので、あわてて自分の発言の意図を説明するアグハ。
「それ、まだ一杯持ってるからあげるよー。魔女の衣装が必要な時に使ってねー」
「どんな時だよ」
特に気にする風もなく、いつもの様にふわふわと答えるコルティナに、仲間から条件反射的にツッコミが入る。
そんないつもの光景に、アグハは苦笑しつつ、
「ありがとうございます。今日の記念に大切に取っておきます」
と言って、そのまま帽子を被り続けた。
平凡な自分にとって、今日はまるで魔女に魔法に掛けてもらった様な一日だった。
たぶん、色々な意味で今日の事は一生忘れないだろう。
そんな事を思いながら。




