◆286◆
ふわふわ魔女コルティナの用意した横断幕による脱力の魔法が功を奏して、ララメンテ家の選手達からすっかり力みが消えると、いよいよ「巨大怪獣」への反撃が始まった。
それまでは「用意した対策をきっちりと使わなければ」と無駄に力んでしまい、取得したデータと微妙に異なるリズムで迫るミノンの格好の餌食となっていたのだが、
「段々、ミノンの攻撃が当たらなくなって来たな」
「逆に、怪獣の方が相手の技をモロに食らいそうになる事が多くなってる」
「それより、あのふざけた横断幕の前で魔女のコスプレしたまま麩菓子を食べてるコルティナの方が気になって仕方がない」
観客達の言う通り、タイミングが合うようになって来たララメンテ家の選手達が、まずこの「巨大怪獣」の勢いを止める事に成功する。
「横断幕一つで、こうも状況を変えられるものなのか」
レングストン家の応援団の中で、驚きつつ感心するティーフ。覗きこんでいる双眼鏡の先では、魔女のコスプレをしたままのコルティナが美味しそうに麩菓子を食べている。
「元々、ミノンへの対策を万全にしていたから出来た事でしょうね。あのふざけた横断幕がなくても、ララメンテ家の選手はミノンのリズムに徐々に慣れていったでしょうし」
一方、隣でエーレが覗きこんでいる双眼鏡の先では、ララメンテ家の選手が右胴を狙って薙いだ剣を、ミノンがかろうじて受けきり、そのまま鍔迫り合いに持ちこんでいる所であった。
「だからと言って、自分のリズムをすぐに変えられる程ミノンは器用じゃないけれど」
「誰だって、自分のリズムをすぐには変えられないだろう。こういう大会の場では特に」
そう言って、ティーフが緊張感のないふわふわ魔女から試合に目を転じた丁度その時、ほぼ同時に互いの頭部を狙って剣が振り下ろされた。
わずかな差でミノンが一本取り、そのまま時間切れとなって試合終了。
「惜しくも判定負けね。でも、今のは相手の方が一本取っていてもおかしくなかったわ」
双眼鏡を下ろしたエーレが大きく息を吐く。
「こんな際どい試合を見ながら、コルティナさんは顔色一つ変えずにお菓子を食べている。大した人だ」
ティーフがまたララメンテ家の応援団の方へ双眼鏡を向けると、コルティナはお徳用の袋入り麩菓子を仲間に回しつつ、自身もその一つを咥えてモゴモゴやっている。
「まさか、お菓子メーカーからいくらかもらってるんじゃないでしょうね」
「まさか、自家の選手達よりタイアップを大事にするなんて事は」
二人が試合と全く関係ない事を心配している間に、ミノンは危うげながらも決勝まで勝ち進み、ララメンテ家の最後の選手となるアグハ・イエロと三冠を懸けての対戦が決定した。
ちなみに、準決勝前にレングストン家の最後の選手が敗退しており、その時はエーレもティーフも他の応援団も皆、無念の色を隠しきれなかった。
自家の選手の敗北を目の当たりにして、のうのうとお徳用の袋入り麩菓子など食っていられる人達ではない。性格的に。




