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「動きはほとんど変わらないんだけど、タイミングが絶望的に合わない」
マントノン家が送り込んで来た「巨大怪獣」ミノンと対戦して敗れた、ララメンテ家及びレングストン家の選手達は口々にそんな事を言って、これから対戦する選手達に気を付ける様注意を促していた。
が、いきなりそんな注意をされた所で何が出来る訳でもなく、その選手がいざこの「巨大怪獣」と相対するや、ほとんどがあっと言う間に敗北してしまい、
「動きはほとんど変わらないんだけど、タイミングが絶望的に合わない」
結局同じ注意を次の選手に伝えて行き、以下繰り返しが続く。ある意味人類の歴史の縮図である。
観客席にいたレングストン家の応援団は、この予想外の事態に動揺し、
「パティの時は上手く行ったのに、何でミノンには全く対策が通じないの?」
「人と獣の違いかな。『大道芸人』と『巨大怪獣』じゃ色々違うんだよ、きっと」
「いや、普通は獣の方が単純だから対策も立て易いでしょうに」
パティとミノンに対して割と失礼な事を言い合っていた。
「『間』を外されてるんだと思う。それも意図的じゃなく、無意識的に」
そんな中、ティーフが意見を述べ、
「多分、シェルシェの入れ知恵ね。でも、ミノンに短期間でどうやってここまで仕込んだのかしら?」
隣にいたエーレもそれに同意しつつ、一心不乱にデータ分析による対策に励んで来た可愛い後輩達が、「巨大怪獣」になすすべもなく瞬殺されていくのを、もどかしい思いで見守っている。
一方観客席の別の場所ではララメンテ家の応援団が、
「これ、どういう事? 特に『巨大怪獣』の行動パターンに変わった所はないんだけど」
「皆、勝ちを意識しすぎてガチガチになっちゃったのかなあ。もっと普段通りにやらないと」
「何か、あの子達の緊張を解くいい方法はないの、コルティナ?」
危機を目の前にして、皆がふわふわ軍師コルティナに注目する。
「うふふ、こんな事もあろうかと、とっておきのブツを用意してあるよー」
そう言って、持参した紙袋から畳んだ横断幕を取り出すコルティナ。
「これを見れば、あの子達の緊張も、あっと言う間に解ける事間違いなしだよー」
「また、妙な文面の横断幕を作って来たのね」
「でも、今はそういう脱力系が一番有効かも」
「よし、急いでそれを広げようじゃないの」
皆が横断幕を一生懸命に広げようとしている最中、コルティナはさらに紙袋から黒いトンガリ帽子とローブを取り出して身に着け始めた。
「で、コルティナは何をやってるの?」
「その横断幕にぴったりなコスプレをちょっとねー」
やがて横断幕が広げられると、ララメンテ家の応援団が呆れた事に、そこには、
『みーんな、ふわふわになーれー』
とデカデカと書かれている。言うまでもなく、コルティナが出ているアトレビド社製のお菓子のCMのキャッチコピーである。
「観客が無断で企業の宣伝をやったらマズくない?」
横断幕を持つ仲間の一人が心配そうに言うと、
「大丈夫、これは宣伝じゃないからー。『アトレビドのお菓子をよろしく』なんてどこにも書いてないしー」
「それにその格好、モロにCMに出てた時の魔女の衣装じゃない!」
「衣装が一致しても、応援とCMは別物だからー」
そう言って、コルティナは紙袋から麩菓子を一本取り出して持ち、横断幕の前に立ってそれを振り回して見せた。
「あ、ふわふわのまじょだー!」
まず小さな子供がこれに気が付いて喜び、
「一体どういう応援だよ。ただのお菓子の宣伝じゃねえか」
意表を突かれた大人達も思わず笑い出し、
「コルティナさんが、また変な事やってる……」
試合の合間にうっかりこれを見てしまった選手達も噴き出す始末。
ミノンなどは腹を抱えて笑っていた。
会場内のあちこちで笑いが発生したのを見て、ふわふわ魔女ことコルティナは、
「うんうん、つかみはオーケーだよー」
と、満足げに言い、
「応援で遊ぶな!」
仲間達から一斉にツッコミを入れられていた。




