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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第二章◆◆ 不死身で無敵な殺人鬼となった娘の恐怖について †レングストン家の悪夢†

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◆28◆

 シェルシェは試合開始直後から、自分の対戦相手が萎縮している事に気付いていた。


 これまでの試合を見るに、このティーフという体格に恵まれた選手は、積極的に攻めて相手を圧倒するタイプの剣士であったが、今、決勝の場に臨んでいる彼女は、やけに慎重な態度に徹している。


 マントノン家の大会優勝者を前にして、ギリギリまでその手の内を読み切ろうと集中しているのなら頼もしいのだが、どうもそんな様子でもない。


 互いに中段に構えた剣先の微妙な動きから伝わって来るのは、「何としても、この魔物に勝つ」、という気迫ではなく、「ここで負けたら、皆に申し訳ない」、という悲鳴に近い責任感だった。


 これでは、せっかくの試合が楽しめない。


 防護マスクの下でシェルシェが、そんな風に少し失望した表情になったのを、近くで試合を見ていたエーレは見逃さず、


「これが決勝戦じゃなくて、準決勝戦だったらよかったのにね、シェルシェ」


 と呟いた。


 準決勝戦なら、たとえ自分が負けてもレングストン家側にはまだ一人残っているから、ティーフももっと思い切った戦い方をしていたはず。


 シェルシェが戦いたかったのは、そんな万全な状態のティーフであって、今のプレッシャーでガチガチなティーフではない。


 さて、シェルシェはどう出るか。今のティーフから一本奪うのは容易いが、あの魔物がそれだけで満足する訳がない。魔物が欲しているのは勝利ではなく強敵なのだ。おそらくティーフを煽り、まずその萎縮を解きに来るだろう。


 一体どんな挑発をして来る事やら――


 エーレがそう思っていた矢先、不意にシェルシェは相手の剣を自分の剣で巻き取る様に素早くぐるんと一回転させ、そのまま上に跳ね上げる。


 ティーフの剣は両手から見事なまでにすっぽ抜けて、上空高く舞い上がり、その剣が床に落ちて来る前に、シェルシェはもはやなす術のないティーフの頭部を容赦なく打った。


「うわぁ、そこまでやる?」


 言葉にはしないが、内心驚き呆れるエーレ。


 これによって一本取ったシェルシェは、


「目が覚めましたか?」


 とでも言いたげに、防護マスクの下で微笑んだが、剣を拾って再び初期位置で構え直したティーフは、


「よりによってこんな大事な場面で、油断するなんて」


 普段なら絶対しない様な醜態を晒してしまった自分を責め、余計ガチガチになってしまった。


 プレッシャーに弱い人の萎縮を解くのは難しいものである。

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