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レングストン家がパソコンメーカーのアウフヴェルツから専門家を招いて、最新機器を使った他流派のデータ分析を行い、選手達の強化に取り組んでいるらしい。
かなり誇張はあるものの大体合ってる情報を受け、ララメンテ家の経営陣は、
「よし、これで今年の大会は盛り上がる」
「大会のダイジェスト番組の視聴率も上がる」
「入門希望者数も大幅増間違いなし」
他家の選手に優勝をかっさらわれるかもしれないという危機感などさらさらなく、いつもの様に商売上の成功だけに心を奪われていた。ブレない人達である。
「という訳で今度の大会も、勝敗とかウチの流派の名誉がどうとか、こだわる必要は全然ないからねー」
そんな身も蓋もない内情を道場生達にしれっと暴露するコルティナ。ララメンテ家にレングストン家の様な熱血スポ根精神が根付かないのは、主にこの人のせいかもしれない。
しかし、ララメンテ家の本部道場の会議室に集まった選手達は、このやる気があるのかないのか分からないふわふわお嬢様に絶大な信頼をおいており、「まじめにやれ」、「剣術なめんな」、などというツッコミを入れたりはしない。少なくとも今の所は。
「さて、情報筋によりますと、このエーヴィヒ・アウフヴェルツというイケメンさんは、目下エーレにご執心の様子。だから、この大会をサポートする事で好感度を上げまくり、何とかエーレルートに持ち込もうと必死なんですねー。
「一方エーレはその見かけ通り、色恋にはまだ早いお子ちゃまです。一応理想の男性は『武骨なサムライタイプ』と言い張っていますが、案外ファザコンの気があるんじゃないかと私は睨んでますよー」
「天然ボケが好みって事?」
道場生の一人が失礼な発言をする。
「その通りー。そしてこのエーヴィヒさん、ちょっと天然入ってるっぽいんです。もっと言うと、『残念系』」
もっと失礼な事を言うコルティナ。
「じゃあ、どストライクじゃない」
「ところがですねー、エーレはあの通り極度のツンデレさんなので、中々素直になれないと思うんですよー」
「あー、すごく分かる」
「言い寄って来たら、『シャーッ!』、って威嚇しそう。しっぽふくらませて」
「猫じゃないんだから」
「でも、エーレもこと剣術に関しては目がないという性質を、このエーヴィヒさんはちゃーんと分かっています。だから、アウフヴェルツの総力を挙げてレングストン家に協力する事で、警戒心を解いてお近づきになろうって腹なんですねー」
「何この策士」
「外堀を着実に埋めに来てるわ」
「気付いた時には間合いの中って訳ね」
「これに対してエーレがどう出るかが、今後の重要なポイントとなる訳でー」
その後もコルティナとララメンテ家の選手達はエーレとエーヴィヒの恋愛の行方を徹底的に分析し、本来の目的である他家の選手の分析などすっかり忘れてしまっていた。
老若を問わず女の集団に恋バナを放り込むと、滅茶苦茶食い付きがいいものである。